CRISPRaとCRISPRiとは?遺伝子発現を操作するCRISPR技術をわかりやすく解説

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CRISPRa(CRISPR activation)とCRISPRi(CRISPR interference)は、CRISPR-Cas9技術を応用した「遺伝子発現の調節システム」です。通常のCRISPR-Cas9はDNAを切断して遺伝子を改変しますが、CRISPRa/iはDNAを切らずに遺伝子のスイッチを「オンまたはオフ」にすることができます。つまり、ゲノムの配列を変えずに、遺伝子の発現量だけを調整できる画期的な技術です。


CRISPRa / CRISPRiの基本構造

両者に共通して使われるのは、**dCas9(dead Cas9 / catalytically inactive Cas9)**と呼ばれる「DNAを切らないCas9」です。

  • dCas9:DNAに結合はできるが切断能力を失ったCas9変異体
  • sgRNA(ガイドRNA):標的とする遺伝子のプロモーター領域や転写開始点に誘導

このdCas9に転写活性化因子や抑制因子を融合させることで、目的遺伝子の発現を上げたり下げたりします。


CRISPRi(遺伝子抑制:CRISPR interference)

CRISPRiでは、dCas9が標的遺伝子のプロモーターや転写開始点に結合し、RNAポリメラーゼの進行を妨害します。さらに、抑制因子(KRABタンパク質など)を融合することで、より強力に転写を阻害します。

  • DNAは切断されない
  • 遺伝子の配列は変わらず、安全性が高い
  • 可逆的で、一時的な遺伝子抑制が可能

CRISPRa(遺伝子活性化:CRISPR activation)

CRISPRaでは、dCas9に転写活性化ドメイン(VP64, p65, Rtaなど)を融合して、標的遺伝子の転写を促進します。プロモーターやエンハンサー付近に結合することでRNAポリメラーゼを呼び込み、遺伝子発現を強力に増加させます。

  • DNAを切らず、配列を変えない
  • 発現を数倍〜数百倍に上げることも可能
  • 定常状態でほとんど発現していない遺伝子も活性化できる

CRISPRa/iと従来のCRISPR-Cas9との違い

特徴CRISPR-Cas9CRISPRiCRISPRa
DNA切断ありなしなし
遺伝子配列の変更ありなしなし
主な目的ノックアウト / ノックイン遺伝子抑制遺伝子活性化
可逆性低い高い高い
応用遺伝子改変機能解析・疾患モデル発現制御・再生医療

応用例

研究分野

  • 遺伝子機能の解析(ノックダウンより精密)
  • スクリーニングによる疾患関連遺伝子の探索
  • エピジェネティクス調節の研究

医療・治療応用

  • ショウジョウバエやマウスで神経疾患モデルに応用
  • 遺伝性疾患で不足する遺伝子産物を補うためのCRISPRa治療
  • iPS細胞や再生医療で特定遺伝子を一時的に活性化

メリットと課題

メリット

  • DNAを切らないため、安全性が高い
  • 可逆的で一時的な制御が可能
  • 多遺伝子同時制御も容易

課題

  • 発現効率が細胞・遺伝子によって異なる
  • sgRNAの標的位置によって効果が大きく変動
  • オフターゲットによる予期せぬ発現変動のリスク

まとめ

CRISPRaとCRISPRiは、DNA配列を変えることなく遺伝子発現を自在に操作できる革新的な技術です。dCas9とsgRNAを活用し、遺伝子のスイッチをオン・オフできるため、研究・医療・細胞工学において欠かせないツールとなりつつあります。今後、再生医療や遺伝子治療への応用がさらに加速すると期待されています。

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