核酸シリーズ 第4回:DNAの複製機構 ― 遺伝情報の正確な継承

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DNA複製とは何か

DNA複製(DNA replication)は、細胞分裂に先立ってDNAを正確にコピーするプロセスです。
「セミコンザーバティブ(半保存的)複製」と呼ばれ、
元の2本鎖のうち1本が新しい鎖のテンプレートとして残るという特徴があります。

複製の過程は大きく分けて

  1. 複製開始(Initiation)
  2. 伸長(Elongation)
  3. 終結(Termination)
    の3段階です。

複製の開始:複製起点(Origin)

複製は、ゲノム上の特定配列である**複製起点(origin of replication; ori)**から始まります。

  • 原核生物(大腸菌など):通常ひとつのoriC
  • 真核生物:複数の複製起点が存在し、一斉に複製が進む

複製開始の主な流れは以下の通りです。

  1. 起点認識タンパク質がoriに結合
  2. ヘリカーゼが呼び込まれ、二本鎖DNAをほどく
  3. 一本鎖DNA結合タンパク質(SSB/RPA)が結合し、再会合を防ぐ
  4. プライマー合成酵素(プライマーゼ)がRNAプライマーを合成

これにより、複製フォークが形成され、DNA合成が開始可能になります。


複製フォークの形成とDNAポリメラーゼ

DNA合成の中心となる酵素が**DNAポリメラーゼ(DNA polymerase)**です。
ただし、ポリメラーゼには重要な制約があります。

  • 新しいヌクレオチドは 3′末端 OH にしか付加できない
  • 完全なゼロからは合成できず、プライマーを必要とする

このため、プライマーゼが合成したRNAプライマーがスタート地点となります。

複製フォークでは以下の酵素が協調して働きます。

酵素役割
ヘリカーゼDNAを解きほぐす
SSB/RPA一本鎖DNAの安定化
DNAポリメラーゼ(δ/ε または Pol III)伸長反応
スライディングクランプ(PCNA/βクランプ)ポリメラーゼのプロセシビティを維持
トポイソメラーゼDNAのねじれ応力を解消
リガーゼ断片を結合

リーディング鎖とラギング鎖

DNAは5′→3′方向にしか合成できないため、複製フォークの進行方向と同じ鎖と逆方向の鎖で挙動が異なります。

■ リーディング鎖(Leading strand)

  • 5′→3′方向がフォークの進行方向と一致
  • 連続的に合成される

■ ラギング鎖(Lagging strand)

  • 逆方向のため、不連続に合成
  • **オカザキフラグメント(約100–200 nt in 真核細胞)**として断片的に作られる
  • その後、
    • RNAプライマーの除去
    • 欠損部分のDNA合成
    • DNAリガーゼによる結合
      が行われて一本の鎖となる

この非対称性こそが、DNA複製を理解する際の最も重要なポイントです。


DNAポリメラーゼの校正機構(Proofreading)

DNA複製の誤りは非常に少なく、10⁷塩基あたり1回程度と言われます。
この高精度を支えるのがDNAポリメラーゼの**校正機構(3′→5′エキソヌクレアーゼ活性)**です。

  • 誤った塩基が取り込まれる
  • ポリメラーゼが停止
  • エキソヌクレアーゼ活性で誤りを切り取る
  • 再び合成に戻る

これにより、塩基選択のミスが迅速に修正されます。


複製後修復(Mismatch Repair)

校正をすり抜けた誤りをさらに修正するシステムが**ミスマッチ修復(MMR)**です。
MMRは、

  • 新しく合成された鎖を識別
  • 誤った塩基(ミスマッチ)を切除
  • 正しい配列に修復

することで、最終的な誤り率を10⁹〜10¹⁰塩基あたり1回レベルまで低下させます。

MMRの欠損は、大腸がんでみられる**マイクロサテライト不安定性(MSI)**の原因にもなります。


真核生物固有の特徴

真核細胞では、複製はS期に限定され、複製起点の再使用を防ぐための厳密な制御が存在します。

  • ORC(origin recognition complex)
  • MCMヘリカーゼ
  • CDKによる複製起点のライセンス制御

これらにより、DNAは1細胞周期あたり1回だけ複製されるよう管理されています。


複製の終結

複製フォークが隣接するフォークと出会う、あるいは染色体末端(テロメア)に到達すると複製は終結します。

特にテロメアでは、末端短縮を補うため
テロメラーゼ(telomerase)
が働き、テロメアDNAを延長します。

これは老化やがん化とも深く関わります。


まとめ

  • DNA複製は「半保存的」であり、1本がテンプレートとして残る
  • 複製起点からフォークが形成され、多数の酵素が協働して進行
  • リーディング鎖は連続、ラギング鎖は不連続(オカザキフラグメント)
  • DNAポリメラーゼの校正とミスマッチ修復が高精度を保証
  • 真核細胞では複製起点の管理とテロメア維持が重要
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