コラーゲン生合成の詳細|ERから細胞外マトリックスへ至るまでの分子プロセス

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

コラーゲンの生合成は、真核細胞のタンパク質合成の中でも最も複雑で精密に制御されたプロセスのひとつです。
特にⅠ型・Ⅱ型などの「線維性コラーゲン(Fibrillar collagen)」は、大部分が細胞外で成熟して初めて強靭な線維になります。

本記事では、細胞内(ER → ゴルジ体) → 細胞外(ECM) の順に、コラーゲン生合成の全ステップを詳細に解説します。


1. mRNA翻訳とプレプロコラーゲン合成(粗面ER)

■ ステップ1:翻訳開始

線維芽細胞や骨芽細胞などで、コラーゲン遺伝子(COL1A1など)が転写されmRNAとなり、粗面小胞体(RER) で翻訳が始まります。

■ ステップ2:シグナルペプチドによりER内腔へ

N末端にはシグナルペプチドが付いており、リボソームはER膜のトランスロコンに結合し、ポリペプチドをER内へ送り込みます。

■ ステップ3:プレプロコラーゲン → プロコラーゲンへ

ER内腔に入るとシグナルペプチドが切断され「プロコラーゲン鎖(α鎖)」になります。
まだ三重らせんではなく、1本のポリペプチド鎖です。


2. プロコラーゲンの翻訳後修飾(ER)

線維性コラーゲンの品質を決定する、最も重要なステップです。

■ ステップ4:プロリン・リジンの水酸化(ヒドロキシル化)

  • 酵素:プロリルヒドロキシラーゼ、リジルヒドロキシラーゼ
  • 基質:プロリン、リジン
  • 補因子:鉄(Fe²⁺)、ビタミンC(アスコルビン酸)

ヒドロキシプロリンは三重らせん構造の安定化に必須で、ビタミンC欠乏が壊血病を引き起こすのはこのためです。


■ ステップ5:糖修飾(グリコシル化)

  • ヒドロキシリジンにガラクトースグルコース–ガラクトースが付加
  • この糖修飾量は線維の太さや物性に影響

■ ステップ6:プロコラーゲンの立体構造調整

  • ジスルフィド結合の形成(C末端プロペプチド)
  • 分子シャペロン(HSP47など)による品質管理(QC)

この段階で、正しい組み合わせのα鎖同士が結合していきます。


3. 三重らせん(二量体 → 三量体)の形成(ER)

■ ステップ7:C末端から三重らせんが巻き上がる

コラーゲン特有の Gly–X–Y の繰り返し配列により、
3本のα鎖がC末端からN末端へ向かって三重らせんを形成します。

  • C末端のプロペプチドが「ジッパー」の役割
  • HSP47が誤折り畳みを防ぎながら三重らせんを安定化

三重らせん完成後をプロコラーゲンと呼びます。


4. ゴルジ体での最終修飾と分泌準備

■ ステップ8:ゴルジ体で成熟化

ERから輸送されたプロコラーゲンは、ゴルジ体で次の処理を受けます:

  • 糖鎖の最終修飾
  • プロコラーゲンの濃縮
  • 分泌小胞へパッケージング

■ ステップ9:細胞外への輸送

分泌小胞が細胞膜と融合し、プロコラーゲンが細胞外に放出されます。


5. 細胞外での加工:プロテアーゼによるプロペプチド除去

ここからが ECM の世界です。

■ ステップ10:N末端・C末端のプロペプチドを切断

  • 酵素:N-proteinase、C-proteinase
  • プロコラーゲンの末端プロペプチドが除去され「**トロポコラーゲン(成熟コラーゲン)」**になります。

※ プロペプチドが残ったままだと線維形成できません。


6. 自己集合(self-assembly)による線維形成(fibrillogenesis)

■ ステップ11:トロポコラーゲンが自然に集合して線維を形成

これは高度に自発的なプロセスで、

  • 分子が**1/4ずつずれた“ステップ配置”**で重合
  • 横方向に拡張し、明瞭な“64–67 nm周期性”のストライエーション(横紋)が形成される

これが電子顕微鏡で見られるコラーゲン線維の特徴です。


7. 架橋による線維の強化(LOX)

■ ステップ12:リジルオキシダーゼ(LOX)による架橋

  • 酵素:リジルオキシダーゼ(LOX、LOXLファミリー)
  • 反応:リジン残基を酸化 → アルジミン結合や架橋を形成
  • 結果:線維の引張強度が増加

架橋が不足すると、皮膚や血管が脆弱になります。


8. コラーゲン生合成が異常になると起こる疾患

  • ビタミンC欠乏 → 壊血病
  • COL1A1変異 → 骨形成不全症(OI)
  • プロテアーゼ異常 → 線維形成不全
  • LOX欠損 → 血管脆弱、皮膚の弛緩
  • 過剰線維化 → 肝・肺・腎の線維症
  • がん → ECMリモデリングによる転移促進

生合成のどのステップが障害されても病態が生じるため、コラーゲン生合成は極めて厳密に制御されています。


まとめ:高度に制御された“細胞内外の共同作業”

コラーゲンの生合成は、

翻訳 → 修飾 → 三重らせん形成 → ゴルジ体処理 → 分泌 → 末端切断 → 線維形成 → 架橋

という多段階プロセスから成り、それぞれのステップが正確に働いて初めて強靭な線維が完成します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*