1. インフルエンザ増殖の全体像
インフルエンザウイルスは、細胞表面の受容体に結合して取り込まれ、細胞内でゲノム複製・タンパク質合成を行います。
その後、細胞表面から新しいウイルス粒子として放出され、次の細胞へ感染を広げます。
増殖サイクルは大きく以下のステップに分けられます:
- 受容体結合(HAとシアル酸)
- エンドサイトーシス(細胞内への取り込み)
- 膜融合とRNPの放出
- 核内でのゲノム複製・転写
- ウイルスタンパク質の翻訳・輸送
- ウイルス粒子の組み立て
- NAによるウイルス放出
それぞれ詳しく解説します。
2. 受容体結合(ウイルスの「カギ」)
ウイルス表面の ヘマグルチニン(HA) が、宿主細胞表面の**シアル酸(Sialic acid)**に結合することで感染が始まります。
- ヒト型インフルエンザ:α2,6結合シアル酸を好む
- 鳥型インフルエンザ:α2,3結合シアル酸を好む
この「受容体特異性」が種特異性や伝播性を決める重要因子です。
3. エンドサイトーシス(細胞内へ取り込まれる)
受容体に結合したウイルスは、細胞膜に包まれながらエンドソームに取り込まれます。
インフルエンザウイルスは主にクラスリン依存性エンドサイトーシスを利用します。
4. 低pHによる膜融合とRNPの脱殻
エンドソームが酸性化すると、以下の変化が起きます。
(1)HAの構造変化
酸性環境でHAが“開く”ことで、ウイルス膜とエンドソーム膜が融合。
(2)M2イオンチャネルが作動
M2タンパク質がH⁺を取り込み、ウイルス内部のpHが変化することで
RNPがコート(M1)から解放される。
この2つによってRNPが細胞質へ放出され、次のステップへ進みます。
5. 核内でのゲノム複製・転写(RNAウイルスでは珍しい特徴)
インフルエンザのRNPは核内に移行します(−ssRNAウイルスとしては例外的)。
主な理由:
- キャップスナッチング(宿主mRNAのキャップを奪う)
- NPやポリメラーゼの核内輸送シグナル
- スプライシング(M2、NS2など)を必要とする
核内で行われる反応
- mRNA合成(転写)
- cRNA合成(複製中間体)
- vRNAの増幅
ウイルスポリメラーゼ(PB1・PB2・PA)が、mRNAとゲノム複製の両方を担います。
6. タンパク質合成と輸送
mRNAは細胞質へ輸送され、リボソームで翻訳されます。
翻訳されたタンパク質の行き先
(A)細胞膜へ行くタンパク質
- HA
- NA
- M2
これらは小胞体 → ゴルジ体 → 細胞膜へ輸送される。
(B)核に戻るタンパク質
- NP
- PB1
- PB2
- PA
RNPを組み立てるために核へ戻ります。
(C)構造タンパク質
- M1(マトリックス)
- NS2(核外輸送)
M1とNS2はRNPと結合し、核外へ輸送する役割を果たします。
7. ウイルス粒子の組み立て
細胞膜の特定領域(脂質ラフト)にHA・NA・M2が集積。
そこにRNPとM1が移動し、**ウイルス粒子が膜から出芽(budding)**していきます。
RNPは8分節すべてをセットでパッケージングされる必要があるため、選別メカニズムが働いていると考えられています。
8. NAによるウイルス放出(最後のステップ)
ウイルスが細胞膜から出芽したあと、まだ細胞表面のシアル酸に「くっついたまま」になります。
そこで活躍するのがノイラミニダーゼ(NA)。
- シアル酸を切断
- ウイルス粒子を細胞から“切り離す”
これが阻害されると、ウイルスは細胞膜に張り付いたまま広がれません。
→ タミフル(オセルタミビル)などの薬は、まさにこのステップを止める薬です。
まとめ
インフルエンザウイルスの増殖は以下のように整理できます。
- シアル酸に結合:HA
- 取り込み:エンドサイトーシス
- 膜融合:低pH+HA変化+M2
- 核内でRNA複製:RNP+PB1/2/PA
- タンパク輸送:ER → Golgi → 細胞膜
- 出芽:M1が構造を形成
- 放出:NAがシアル酸を切断
次回はさらに深く踏み込み、
「感染成立の分子メカニズム(受容体特異性・細胞侵入・宿主適応)」
について詳細に解説します。