1. インフルエンザ感染後、体の中で何が起きるのか?
インフルエンザウイルスは、主に 呼吸上皮細胞 に感染します。
感染細胞がウイルスを感知すると炎症反応が始まり、これが発熱・頭痛・筋肉痛などの典型症状を引き起こします。
大まかな流れは以下の通り:
- ウイルスRNAの感知(自然免疫)
- サイトカイン産生(IFN、TNF、IL-6 など)
- 炎症細胞の動員(マクロファージ、好中球)
- 感染細胞の破壊
- 回復と組織修復
これらがうまく働けば症状は軽く、
過剰に働きすぎると 重症肺炎やサイトカインストーム につながります。
2. 自然免疫(先天免疫)が「インフルエンザを最初に発見する」
ウイルスRNAは、細胞内のセンサーによって素早く検知されます。
2-1. センサー(ウイルス感知装置)
● RIG-I(主要センサー)
- インフルエンザの 5’三リン酸RNA(vRNA) を認識
- 最も重要な自然免疫トリガー
● TLR7(エンドソーム内でds/ssRNAを認識)
- プラスマサイトイド樹状細胞などで活性化
- 強力なIFN(インターフェロン)産生を誘導
● NLRP3インフラマソーム
- 細胞ストレスに反応して IL-1β・IL-18 を産生
- 発熱や炎症を促進
3. インターフェロン(IFN)応答:抗ウイルス状態の確立
ウイルスを感知した細胞は IFN-α/β(I型インターフェロン) を放出します。
3-1. IFNの役割
隣接細胞に
「ウイルスが来ている、警戒せよ」
というシグナルを送る。
その結果:
- ウイルス複製を阻害
- RNA分解酵素(OAS/RNase L)の誘導
- PKRによるタンパク質合成停止
- MHC class I増加 → 細胞傷害性T細胞による排除促進
これにより、広範囲の細胞が「抗ウイルス状態」へと変化します。
4. 炎症反応(サイトカインによる症状の発生)
感染細胞・免疫細胞が分泌するサイトカインが、インフルエンザの症状を生みます。
● IL-6:発熱、倦怠感
● TNF-α:食欲低下、全身症状
● IL-1β:発熱、痛み
● ケモカイン(CXCL10など):炎症細胞の動員
● IFN:筋肉痛、寒気
これらは ウイルス自身の直接的な毒性ではなく、宿主の免疫反応 によって生じます。
5. 感染細胞の排除(マクロファージ・NK細胞・T細胞)
免疫システムは感染細胞を的確に排除します。
5-1. マクロファージ
- 感染細胞の死骸処理
- サイトカイン産生
- 抗原提示
5-2. NK細胞
- IFNで活性化される
- MHC class I が低下した感染細胞を攻撃
5-3. 細胞傷害性T細胞(CD8⁺ T細胞)
- ウイルス抗原を提示した細胞を特異的に破壊
- 肺内での主要なウイルス排除機構
これらによってウイルス量が減少し、症状も収束に向かいます。
6. 重症化メカニズム:サイトカインストームと肺障害
インフルエンザの重症化は、ウイルスが多いだけでは起こりません。
免疫反応が暴走すること が原因となります。
6-1. サイトカインストーム
炎症サイトカインが制御不能に増加する状態で、特に:
- IL-6
- TNF-α
- IFN-β
- IL-1β
などが過剰産生される。
結果
- 血管透過性が上昇
- 浸出液が肺にたまる
- ARDS(急性呼吸窮迫症候群)に進展
- 臓器障害が発生
6-2. 免疫細胞の過剰浸潤
好中球やマクロファージが大量に肺へ移動すると、
自分の組織まで傷つけてしまい、肺炎が悪化します。
6-3. 既往症によるリスク増大
- 高齢者
- 喘息・COPD
- 心不全
- 妊婦
- 糖尿病
- 免疫抑制状態
では重症化しやすい理由として、
免疫反応の調整が難しくなる点が挙げられます。
7. 回復と組織修復
ウイルスが減少すると、炎症反応は抑えられ、
線維芽細胞や上皮幹細胞が働いて肺の組織修復が進みます。
軽症例では1〜2週間で回復しますが、
重症肺炎の場合は完全な回復まで数週間以上かかることもあります。
まとめ
インフルエンザの症状や重症化は、
- 免疫応答の強さ・バランス
- サイトカインの量
- 炎症細胞の動員
によって決まります。
ウイルスの増殖そのものより、
宿主の免疫反応の“過剰さ”が病態を左右する
というのがポイントです。