第5回:インフルエンザの抗原変異(抗原シフト・抗原ドリフト)

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■ 抗原変異とは何か

インフルエンザウイルス(特にA型)は、表面抗原である

  • HA(ヘマグルチニン)
  • NA(ノイラミニダーゼ)
    の構造が変化しやすい性質を持っています。

この抗原変化のため、私たちの免疫が過去の感染やワクチンで獲得した抗体ではウイルスをうまく中和できなくなり、毎年流行が繰り返される根本的な理由になっています。

抗原変異には以下の2種類があります:

  1. 抗原ドリフト(Antigenic Drift)
  2. 抗原シフト(Antigenic Shift)

両者は原因・頻度・影響が大きく異なります。


■ 1. 抗原ドリフト:季節性インフルエンザの主因

● 仕組み

抗原ドリフトは、RNA複製エラーによる少しずつの変異の蓄積で起こります。
インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼには校正機能がないため、複製時の誤りがそのまま残りやすく、HAやNAのアミノ酸配列の一部が置き換わります。

● 特徴

  • 小さな変異が少しずつ蓄積
  • 毎年または数年単位で起こる
  • 既存の免疫を部分的に回避
  • 季節性インフルエンザの原因

● 公衆衛生への影響

ワクチン株は毎年更新される必要があります。
これは、抗原ドリフトでウイルスが少しずつ免疫から逃げるためです。


■ 2. 抗原シフト:パンデミックを引き起こす大変異

● 仕組み

抗原シフトは、異なるインフルエンザA型ウイルス同士が1つの細胞に感染し、遺伝子が再集合(リオソーティング)することで、新しいHAまたはNAを持つウイルスが誕生する現象です。

例:

  • 鳥インフルエンザウイルス
  • 豚インフルエンザウイルス
  • 人インフルエンザウイルス
    が混合感染 → 新しい亜型のインフルエンザAウイルスが生まれる

● 特徴

  • 大規模で“飛び級”的な”抗原の変化
  • 人類が免疫を持たない新亜型が誕生
  • 発生頻度は非常に低い
  • 主にインフルエンザA型でのみ起こる(B型ではほぼ起こらない)

● 歴史的パンデミック例

  • 1918年 H1N1(スペインかぜ)
  • 1957年 H2N2(アジアかぜ)
  • 1968年 H3N2(香港かぜ)
  • 2009年 H1N1(新型インフルエンザ)

これらはいずれも抗原シフトにより誕生したウイルスが原因です。


■ 抗原ドリフトと抗原シフトの比較

特性抗原ドリフト抗原シフト
原因RNA複製エラーの蓄積異種ウイルスの遺伝子再集合
変化の規模小さい大規模(新亜型誕生)
発生頻度毎年〜数年数十年に一度
対象A、B型で起こるA型のみ
影響季節性流行パンデミック

■ まとめ:なぜインフルエンザは毎年問題になるのか

  • ウイルスのRNA複製はエラーが多く、抗原ドリフトで毎年少しずつ変異
  • 動物由来ウイルスとの遺伝子再集合により、抗原シフトで新亜型が誕生
  • これらの抗原変異が、人間の免疫から逃れ続ける理由
  • その結果、ワクチンも毎年更新する必要がある

インフルエンザの感染制御には、「抗原変異の性質」を理解することが非常に重要になります。

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