第6回:季節性インフルエンザとパンデミックの生物学

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■ 季節性インフルエンザとは

季節性インフルエンザは、冬季を中心に毎年流行を繰り返す感染症です。主に以下の特徴があります。

  • 抗原ドリフトによる小規模変異が免疫回避を引き起こす
  • A型(H1N1, H3N2)とB型の2種類が主に流行
  • 過去の感染・ワクチンによる免疫が部分的に残っているため、症状・致死率は比較的安定
  • 流行規模は地域ごとにほぼ毎年発生

● 季節性流行の成立要因

  1. 免疫の減衰(感染や接種から時間が経つと抗体が低下)
  2. 抗原ドリフトによる抗体逃避
  3. 冬季の環境要因(乾燥、低温でウイルスが安定化)
  4. 人の行動パターン(室内活動の増加)

■ パンデミックインフルエンザとは

パンデミックとは、世界的規模で短期間に感染が爆発的に拡大する現象です。

インフルエンザでパンデミックが起こる主因は、
抗原シフトによって新しい亜型が誕生し、人類が免疫を全く持たない状態で広がることです。

● パンデミックの特徴

  • 新しいHAまたはNAを持つ新亜型
  • 世界中で免疫がほぼゼロ → 感染が急速に拡大
  • 年齢分布が大きく変わる(若年者への重症化など)
  • 流行が1〜3年続く
  • 過去の例では致死率が大きく変動(1918年は非常に高い)

● 主なパンデミック

  • 1918年:H1N1(スペインかぜ)
  • 1957年:H2N2(アジアかぜ)
  • 1968年:H3N2(香港かぜ)
  • 2009年:H1N1(新型インフルエンザ)

これらはすべて抗原シフトによる新亜型が原因です。


■ 両者の生物学的違い

1. 抗原変異の規模

種類季節性パンデミック
主因小さな変異(抗原ドリフト)大変異(抗原シフト)
免疫の有無部分的にありほぼゼロ
致死率・重症度安定している変動が大きい

2. 宿主範囲の違い

  • パンデミックウイルスでは鳥・豚など動物由来ウイルスとの遺伝子再集合が重要
  • 人に適応するため、HAの受容体認識やPB2の宿主適応変異(E627Kなど)が獲得されることが多い

3. 感染の持続と世代交代

パンデミックウイルスは数年で季節性ウイルスへと“定着”します。
(例:2009年H1N1は現在の季節性H1N1になっている)


■ 季節性インフルエンザとパンデミックを区別する意味

  • ワクチン更新戦略の違い
  • 公衆衛生対応(渡航制限・休校措置など)の判断
  • サーベイランス体制の強化
  • ウイルス進化の監視(特に動物由来ウイルス)

パンデミックの初期には「感染力」「重症度」「宿主適応」の評価が急務となります。


■ まとめ

  • 季節性インフルエンザは抗原ドリフトによって毎年流行
  • パンデミックインフルエンザは抗原シフトで新亜型が誕生して起こる
  • 人類の既存免疫の有無が、流行の規模と重症度を大きく左右する
  • パンデミック株は最終的に季節性株として定着し、以後はドリフトで変化を続ける
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