■ インフルエンザワクチンの基本原理
インフルエンザワクチンの目的は、主にウイルス表面抗原である
- HA(ヘマグルチニン)
- NA(ノイラミニダーゼ)
に対する中和抗体を誘導し、感染・重症化を防ぐことです。
抗原提示 → B細胞活性化 → 中和抗体産生
という免疫プロセスは、どの方式のワクチンでも共通しています。
■ 1. 不活化ワクチン(現在の標準)
● 特徴
- ウイルスをホルマリンなどで「不活化」し、増殖できない状態で投与
- インフルエンザの季節性ワクチンの主流(日本を含む多くの国で採用)
● メリット
- 安全性が高い
- 高齢者・乳児など幅広い対象に使用可能
- 流行株に合わせた毎年の更新が容易
● デメリット
- 局所・全身性の免疫が十分でないことがある
- 効果の持続が短い(半年〜1年)
- 何度も接種する必要がある
● 製造のポイント
- ほとんどが鶏卵培養で生産される
- 卵適応変異(egg-adaptation)が抗原性に影響することがある
→ ワクチン効果のばらつきの一因
■ 2. 生ワクチン(LAIV:弱毒化ワクチン)
● 特徴
- 弱毒化されたウイルスを鼻腔内に投与
- 米国など一部の国で使用(日本では通常使用されない)
● メリット
- 自然感染に近い免疫応答
- 粘膜免疫(IgA) が誘導され、感染防御効果が高い
- 1回の投与で強い免疫が得られる
● デメリット
- 基礎疾患を持つ人、乳幼児、高齢者には使用不可
- ウイルスが非常に弱毒化されているとはいえ、生体内で増えるため注意が必要
● 独自の利点
鼻粘膜でウイルスが少し増殖 → 粘膜免疫・細胞性免疫が強く誘導
→ 不活化ワクチンより感染防御力が高いケースがある
■ 3. mRNAワクチン(開発が加速)
● 特徴
- mRNAにHAなどの抗原情報を載せ、細胞に発現させる方式
- COVID-19の成功を受けてインフルエンザでも複数の治験が進行中
● メリット
- 栽培不要(卵に依存しない) → 株変更に迅速対応
- mRNA配列の調整のみで更新可能
- 粘膜以外でも高力価の抗体が誘導されやすい
- 多価化が容易(複数HAを1本に混ぜるなど)
● デメリット
- mRNA特有の副反応(局所痛・発熱)
- 長期保存に低温が必要
- 実用化は国や企業でまだ開発段階
● 期待される未来
- パンデミック対応ワクチンとして極めて優秀
- 「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発に向けた応用が進む
■ 方式ごとの比較
| 方式 | 免疫強度 | 安全性 | 製造スピード | 主な利用 |
|---|---|---|---|---|
| 不活化 | 中程度 | 高い | 中程度 | 現在の季節性ワクチンの主流 |
| 生ワクチン | 高い(粘膜免疫) | 中程度 | 中程度 | 特定国での小児など |
| mRNA | 高い | 高い(非感染性) | 非常に速い | 開発中・パンデミック対応 |
■ まとめ
- 不活化ワクチンは現在の標準で、安全性と安定性に優れる
- 生ワクチンは粘膜免疫を誘導し感染防御力が高いが、対象者に制限
- mRNAワクチンは迅速な製造と高い免疫誘導で、新しい選択肢として期待
- インフルエンザの変異速度と流行動態を考えると、より柔軟なmRNAプラットフォームが今後の中心になる可能性が高い