第8回:ワクチン開発の原理(不活化・生ワクチン・mRNA

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

■ インフルエンザワクチンの基本原理

インフルエンザワクチンの目的は、主にウイルス表面抗原である

  • HA(ヘマグルチニン)
  • NA(ノイラミニダーゼ)
    に対する中和抗体を誘導し、感染・重症化を防ぐことです。

抗原提示 → B細胞活性化 → 中和抗体産生
という免疫プロセスは、どの方式のワクチンでも共通しています。


■ 1. 不活化ワクチン(現在の標準)

● 特徴

  • ウイルスをホルマリンなどで「不活化」し、増殖できない状態で投与
  • インフルエンザの季節性ワクチンの主流(日本を含む多くの国で採用)

● メリット

  • 安全性が高い
  • 高齢者・乳児など幅広い対象に使用可能
  • 流行株に合わせた毎年の更新が容易

● デメリット

  • 局所・全身性の免疫が十分でないことがある
  • 効果の持続が短い(半年〜1年)
  • 何度も接種する必要がある

● 製造のポイント

  • ほとんどが鶏卵培養で生産される
  • 卵適応変異(egg-adaptation)が抗原性に影響することがある
    → ワクチン効果のばらつきの一因

■ 2. 生ワクチン(LAIV:弱毒化ワクチン)

● 特徴

  • 弱毒化されたウイルスを鼻腔内に投与
  • 米国など一部の国で使用(日本では通常使用されない)

● メリット

  • 自然感染に近い免疫応答
  • 粘膜免疫(IgA) が誘導され、感染防御効果が高い
  • 1回の投与で強い免疫が得られる

● デメリット

  • 基礎疾患を持つ人、乳幼児、高齢者には使用不可
  • ウイルスが非常に弱毒化されているとはいえ、生体内で増えるため注意が必要

● 独自の利点

鼻粘膜でウイルスが少し増殖 → 粘膜免疫・細胞性免疫が強く誘導
→ 不活化ワクチンより感染防御力が高いケースがある


■ 3. mRNAワクチン(開発が加速)

● 特徴

  • mRNAにHAなどの抗原情報を載せ、細胞に発現させる方式
  • COVID-19の成功を受けてインフルエンザでも複数の治験が進行中

● メリット

  • 栽培不要(卵に依存しない) → 株変更に迅速対応
  • mRNA配列の調整のみで更新可能
  • 粘膜以外でも高力価の抗体が誘導されやすい
  • 多価化が容易(複数HAを1本に混ぜるなど)

● デメリット

  • mRNA特有の副反応(局所痛・発熱)
  • 長期保存に低温が必要
  • 実用化は国や企業でまだ開発段階

● 期待される未来

  • パンデミック対応ワクチンとして極めて優秀
  • 「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発に向けた応用が進む

■ 方式ごとの比較

方式免疫強度安全性製造スピード主な利用
不活化中程度高い中程度現在の季節性ワクチンの主流
生ワクチン高い(粘膜免疫)中程度中程度特定国での小児など
mRNA高い高い(非感染性)非常に速い開発中・パンデミック対応

■ まとめ

  • 不活化ワクチンは現在の標準で、安全性と安定性に優れる
  • 生ワクチンは粘膜免疫を誘導し感染防御力が高いが、対象者に制限
  • mRNAワクチンは迅速な製造と高い免疫誘導で、新しい選択肢として期待
  • インフルエンザの変異速度と流行動態を考えると、より柔軟なmRNAプラットフォームが今後の中心になる可能性が高い
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*