PDAC(膵管腺がん)の予後と臨床的課題

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膵管腺がん(pancreatic ductal adenocarcinoma; PDAC)は、現在知られている固形がんの中でも最も予後不良ながんの一つであり、依然として臨床腫瘍学における大きな未解決課題である。

極めて不良な予後

PDACの5年生存率は約13%と報告されており、主要ながん種の中で最下位レベルに位置する。これは、同じ消化器がんである大腸がんや胃がんと比較しても著しく低い数値である。
この低い生存率は、診断時の進行度、治療抵抗性、早期転移傾向といったPDAC特有の生物学的性質が複合的に影響した結果である。

診断時に進行期である症例が大多数

PDAC患者の多くは、診断時点ですでに局所進行あるいは遠隔転移を伴う進行期にある。
その主な理由として、

  • 初期症状が非特異的(腹部不快感、体重減少など)
  • 有効なスクリーニング法が確立されていない
  • 腫瘍が後腹膜臓器に位置し、画像的に発見されにくい

といった点が挙げられる。
結果として、外科的切除が可能な「切除可能PDAC」は全体の20%未満にとどまる。

化学療法・免疫療法の効果が限定的

現在のPDAC治療の中心は化学療法であり、FOLFIRINOXやgemcitabine+nab-paclitaxelなどの多剤併用療法が標準治療として用いられている。しかし、これらの治療による生存期間延長効果は限定的であり、根治には至らないケースがほとんどである。

また、他がん種で大きな成功を収めている免疫チェックポイント阻害剤も、PDACでは例外的なMSI-high症例を除き、ほとんど効果を示さない。
これはPDACが、

  • 免疫抑制的な腫瘍微小環境を有すること
  • 線維性間質(desmoplasia)が強く、免疫細胞や薬剤の浸潤を妨げること

などに起因すると考えられている。

臨床的課題と今後の展望

PDACにおける最大の臨床的課題は、
**「早期診断法の確立」と「治療抵抗性を克服する新規治療戦略の開発」**である。

近年では、腫瘍微小環境、がん幹細胞性、代謝適応、免疫回避機構など、PDAC特有の生物学的特性に着目した研究が進展しており、従来治療と異なる切り口からの介入が模索されている。
これらの基礎研究と臨床研究の橋渡しが、PDACの予後改善に向けた鍵となる。

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