シクロホスファミドはプロドラッグである
シクロホスファミド自体は不活性であり、肝臓のCYP酵素によって代謝されて初めて活性化される。
- 4-ヒドロキシシクロホスファミド
- アルドホスファミド
を経て、最終的に
- ホスホラミドマスタード(活性体)
- アクロレイン(毒性代謝物)
が産生される。
免疫抑制作用の本体は、ホスホラミドマスタードによるDNAアルキル化である。
DNAアルキル化とは何か
アルキル化剤は、DNA塩基(主にグアニン)の
- N7位
- O6位
などに共有結合し、
- DNA架橋形成
- 複製フォーク停止
- DNA修復不能な損傷
を引き起こす。
その結果、細胞は
- 細胞周期停止
- アポトーシス へと不可逆的に進む。
なぜ免疫細胞が強く障害されるのか
シクロホスファミドは非選択的なDNA障害薬だが、免疫細胞は特に感受性が高い。
理由は以下の通りである。
- 活性化T細胞・B細胞は急速に分裂する
- DNA修復能が相対的に低い
- クローン増殖という性質上、障害が集団的に拡大する
結果として、
- 自己反応性リンパ球
- 抗体産生B細胞
が一気に除去される。
「免疫抑制」ではなく「免疫リセット」
MTXやMMFが
- 増殖抑制
- 機能抑制
であるのに対し、シクロホスファミドは
👉 免疫細胞そのものを減らす(depletion)
という点で質的に異なる。
このため、
- 急速進行性ループス腎炎
- ANCA関連血管炎
- 中枢神経ループス
など、時間との勝負になる病態で用いられる。
B細胞抑制が特に強い理由
B細胞は
- クラススイッチ
- 抗体大量産生
のために激しいDNA再編成と増殖を行う。
この状態は、DNA障害に対して極めて脆弱であり、
- 自己抗体産生B細胞
- 形質芽細胞
が効率よく除去される。
副作用の分子基盤
骨髄抑制
- 造血幹細胞のDNA障害
出血性膀胱炎
- アクロレインによる尿路上皮障害
性腺障害・不妊
- 生殖細胞のDNA不可逆障害
発がん性
- DNA変異蓄積による二次がん
これらはすべて、DNAアルキル化という作用機序の裏返しである。
パルス療法が用いられる理由
膠原病では、
- 連日低用量投与 ではなく、
- 間欠的大量静注(IVCY)
が選択されることが多い。
これは、
- 免疫細胞を一気に除去
- 正常組織の回復時間を確保
するための、分子作用を踏まえた投与戦略である。