第7回 アルキル化剤:シクロホスファミドの分子基盤

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シクロホスファミドはプロドラッグである

シクロホスファミド自体は不活性であり、肝臓のCYP酵素によって代謝されて初めて活性化される。

  • 4-ヒドロキシシクロホスファミド
  • アルドホスファミド

を経て、最終的に

  • ホスホラミドマスタード(活性体)
  • アクロレイン(毒性代謝物)

が産生される。

免疫抑制作用の本体は、ホスホラミドマスタードによるDNAアルキル化である。


DNAアルキル化とは何か

アルキル化剤は、DNA塩基(主にグアニン)の

  • N7位
  • O6位

などに共有結合し、

  • DNA架橋形成
  • 複製フォーク停止
  • DNA修復不能な損傷

を引き起こす。

その結果、細胞は

  • 細胞周期停止
  • アポトーシス へと不可逆的に進む。

なぜ免疫細胞が強く障害されるのか

シクロホスファミドは非選択的なDNA障害薬だが、免疫細胞は特に感受性が高い

理由は以下の通りである。

  • 活性化T細胞・B細胞は急速に分裂する
  • DNA修復能が相対的に低い
  • クローン増殖という性質上、障害が集団的に拡大する

結果として、

  • 自己反応性リンパ球
  • 抗体産生B細胞

が一気に除去される。


「免疫抑制」ではなく「免疫リセット」

MTXやMMFが

  • 増殖抑制
  • 機能抑制

であるのに対し、シクロホスファミドは

👉 免疫細胞そのものを減らす(depletion)

という点で質的に異なる。

このため、

  • 急速進行性ループス腎炎
  • ANCA関連血管炎
  • 中枢神経ループス

など、時間との勝負になる病態で用いられる。


B細胞抑制が特に強い理由

B細胞は

  • クラススイッチ
  • 抗体大量産生

のために激しいDNA再編成と増殖を行う。

この状態は、DNA障害に対して極めて脆弱であり、

  • 自己抗体産生B細胞
  • 形質芽細胞

が効率よく除去される。


副作用の分子基盤

骨髄抑制

  • 造血幹細胞のDNA障害

出血性膀胱炎

  • アクロレインによる尿路上皮障害

性腺障害・不妊

  • 生殖細胞のDNA不可逆障害

発がん性

  • DNA変異蓄積による二次がん

これらはすべて、DNAアルキル化という作用機序の裏返しである。


パルス療法が用いられる理由

膠原病では、

  • 連日低用量投与 ではなく、
  • 間欠的大量静注(IVCY)

が選択されることが多い。

これは、

  • 免疫細胞を一気に除去
  • 正常組織の回復時間を確保

するための、分子作用を踏まえた投与戦略である。

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