― 自己抗体産生の中枢を断つ ―
なぜB細胞を標的にするのか
自己免疫疾患において、B細胞は単なる「抗体産生細胞」ではない。
B細胞は以下の3つの役割を同時に担う。
- 自己抗体の産生
- 抗原提示細胞(APC)としての機能
- サイトカイン産生による免疫調節
このため、B細胞は免疫反応の**ハブ(結節点)**として働き、T細胞依存・非依存の両経路を結びつけている。
B細胞標的療法は、この結節点を断つことで免疫ネットワーク全体を再構築する治療である。
抗CD20抗体:成熟B細胞の選択的除去
CD20は、前駆B細胞から成熟B細胞に発現する膜タンパクであり、形質細胞では失われる。
抗CD20抗体(代表例:リツキシマブ)は、この分化段階特異性を利用して、
- 自己抗体産生の「供給源」を枯渇させる
- 既存の長寿命形質細胞は温存する
という特徴的な作用様式を持つ。
B細胞除去は主に以下の機構で起こる。
- 補体依存性細胞傷害(CDC)
- 抗体依存性細胞傷害(ADCC)
- アポトーシス誘導
結果として、自己抗体量は時間差で低下し、疾患活動性も遅れて改善することが多い。
抗CD20療法の「効き方」が示す病態
抗CD20抗体が有効な疾患では、
- 病態が自己抗体依存性である
- B細胞–T細胞相互作用が病勢を支えている
ことが示唆される。
一方で、形質細胞が主役となる病態では効果が限定的である。
この「効く・効かない」の差は、自己免疫疾患の分子病態を理解する上で重要な手がかりとなる。
BAFF阻害:B細胞生存シグナルの遮断
BAFF(B cell activating factor)は、B細胞の生存・成熟に必須のサイトカインである。
特に自己反応性B細胞は、BAFF依存性が高いことが知られている。
BAFF阻害薬は、
- 未熟B細胞から成熟B細胞への生存競争を厳しくする
- 自己反応性B細胞を選択的に排除する
という「自然選択の強化」に近い作用を持つ。
これはB細胞を一気に除去する抗CD20療法とは対照的な、調律型のB細胞制御である。
抗CD20とBAFF阻害の違い
両者は同じB細胞標的療法でありながら、作用階層が異なる。
- 抗CD20抗体
- 成熟B細胞を物理的に除去
- 効果は強力だが一過性
- BAFF阻害
- B細胞生存環境を変化させる
- 効果は緩徐だが持続的
この違いは、疾患ごとの使い分けや併用戦略を考える上で重要である。
B細胞標的療法の分子的位置づけ
免疫階層で見ると、B細胞標的療法は
- 抗原提示段階
- リンパ球相互作用段階
に強く介入する治療である。
これは、前回扱ったサイトカイン阻害(エフェクター段階)とは異なる階層を狙っている。
次回へのつながり
次回の 第10回:JAK阻害薬 では、
B細胞・T細胞・サイトカインのいずれにも共通する「細胞内シグナルの要所」を標的とする戦略を扱う。
B細胞標的療法が「細胞集団」を狙う治療であるのに対し、
JAK阻害薬は「情報伝達そのもの」を抑える治療である。