第9回:分子標的薬② B細胞標的療法

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― 自己抗体産生の中枢を断つ ―

なぜB細胞を標的にするのか

自己免疫疾患において、B細胞は単なる「抗体産生細胞」ではない。
B細胞は以下の3つの役割を同時に担う。

  • 自己抗体の産生
  • 抗原提示細胞(APC)としての機能
  • サイトカイン産生による免疫調節

このため、B細胞は免疫反応の**ハブ(結節点)**として働き、T細胞依存・非依存の両経路を結びつけている。
B細胞標的療法は、この結節点を断つことで免疫ネットワーク全体を再構築する治療である。


抗CD20抗体:成熟B細胞の選択的除去

CD20は、前駆B細胞から成熟B細胞に発現する膜タンパクであり、形質細胞では失われる。
抗CD20抗体(代表例:リツキシマブ)は、この分化段階特異性を利用して、

  • 自己抗体産生の「供給源」を枯渇させる
  • 既存の長寿命形質細胞は温存する

という特徴的な作用様式を持つ。

B細胞除去は主に以下の機構で起こる。

  • 補体依存性細胞傷害(CDC)
  • 抗体依存性細胞傷害(ADCC)
  • アポトーシス誘導

結果として、自己抗体量は時間差で低下し、疾患活動性も遅れて改善することが多い。


抗CD20療法の「効き方」が示す病態

抗CD20抗体が有効な疾患では、

  • 病態が自己抗体依存性である
  • B細胞–T細胞相互作用が病勢を支えている

ことが示唆される。

一方で、形質細胞が主役となる病態では効果が限定的である。
この「効く・効かない」の差は、自己免疫疾患の分子病態を理解する上で重要な手がかりとなる。


BAFF阻害:B細胞生存シグナルの遮断

BAFF(B cell activating factor)は、B細胞の生存・成熟に必須のサイトカインである。
特に自己反応性B細胞は、BAFF依存性が高いことが知られている。

BAFF阻害薬は、

  • 未熟B細胞から成熟B細胞への生存競争を厳しくする
  • 自己反応性B細胞を選択的に排除する

という「自然選択の強化」に近い作用を持つ。

これはB細胞を一気に除去する抗CD20療法とは対照的な、調律型のB細胞制御である。


抗CD20とBAFF阻害の違い

両者は同じB細胞標的療法でありながら、作用階層が異なる。

  • 抗CD20抗体
    • 成熟B細胞を物理的に除去
    • 効果は強力だが一過性
  • BAFF阻害
    • B細胞生存環境を変化させる
    • 効果は緩徐だが持続的

この違いは、疾患ごとの使い分けや併用戦略を考える上で重要である。


B細胞標的療法の分子的位置づけ

免疫階層で見ると、B細胞標的療法は

  • 抗原提示段階
  • リンパ球相互作用段階

に強く介入する治療である。
これは、前回扱ったサイトカイン阻害(エフェクター段階)とは異なる階層を狙っている。


次回へのつながり

次回の 第10回:JAK阻害薬 では、
B細胞・T細胞・サイトカインのいずれにも共通する「細胞内シグナルの要所」を標的とする戦略を扱う。

B細胞標的療法が「細胞集団」を狙う治療であるのに対し、
JAK阻害薬は「情報伝達そのもの」を抑える治療である。

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