はじめに
第5回では、蛍光タンパク質を用いた発現解析・局在解析の基本設計を解説しました。しかし、細胞内の分子は静止して存在しているわけではなく、常に動き、入れ替わり、相互作用しています。
第6回では、蛍光タンパク質を用いてこうした分子の動態や相互作用を可視化する代表的手法を整理します。
1. 動態解析とは何を見るのか
動態解析で問われるのは、
- どれくらい速く動くのか
- どれくらい安定に結合しているのか
- 可逆的か不可逆的か
といった「量」ではなく「振る舞い」です。
蛍光タンパク質は、こうした情報を生細胞で取得できる数少ないツールです。
2. FRAP(蛍光回復後光漂白)
FRAP(Fluorescence Recovery After Photobleaching)は、
- 局所的に強いレーザーで蛍光を消失させ
- その後の蛍光回復を追跡する
ことで、分子の拡散性や結合状態を評価する手法です。
回復が速ければ可動性が高く、回復が遅ければ固定成分が多いことを意味します。
3. FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)
FRETは、2種類の蛍光タンパク質を用いて**分子間距離(数nm)**を検出する手法です。
- ドナーFP
- アクセプターFP
が近接すると、エネルギー移動が起こり、蛍光特性が変化します。
FRETは、
- タンパク質相互作用
- 構造変化
の検出に非常に有用ですが、設計とコントロールが極めて重要です。
4. BiFC(分割蛍光タンパク質法)
BiFC(Bimolecular Fluorescence Complementation)は、蛍光タンパク質を2つに分割し、
- 相互作用したときのみ
- 完全な蛍光構造が再構成される
という原理を利用した手法です。
相互作用の「存在」を直感的に可視化できる一方、不可逆性という特性を理解した上で使う必要があります。
5. 手法選択の考え方
これらの手法は目的によって使い分けます。
- 動きの速さ → FRAP
- 距離・相互作用 → FRET
- 相互作用の可視化 → BiFC
すべてを一つの実験で得ようとすると、かえって解釈が曖昧になります。
6. 実験でよくある誤解
- 蛍光が変わった=相互作用した
- シグナルが強い=結合が強い
とは限りません。
蛍光タンパク質は「指標」であり、生化学的裏付けとの併用が重要です。
おわりに
第6回では、蛍光タンパク質を用いた動態・相互作用解析の代表的手法を整理しました。次回は、**光で状態を切り替えられる蛍光タンパク質(フォトスイッチャブル/フォトコンバーチブルFP)**を扱います。