第4回:ROSは悪者か?―ミトコンドリア由来シグナル―

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「ROS(活性酸素種)は細胞にとって有害で、老化やがんの原因になる」──この理解は半分正解で、半分は時代遅れです。現在では、ROSは量・局在・タイミングによって役割が全く異なる、精密に制御されたシグナル分子であると考えられています。

本記事では、ミトコンドリア由来ROS(mitochondrial ROS, mtROS)がどこで生じ、何を制御しているのかを整理します。

ROSとは何か:まず定義を整理する

ROSには以下のような分子が含まれます。

  • スーパーオキシド(O2−)
  • 過酸化水素(H2O2)
  • ヒドロキシラジカル(•OH)

この中で、シグナル分子として特に重要なのはH2O2です。H2O2は比較的安定で拡散可能であり、特定のシステイン残基を可逆的に酸化することでタンパク質機能を制御します。

ミトコンドリアはROSの主要な発生源

ミトコンドリアにおけるROS産生の主な部位は

  • 電子伝達系 Complex I
  • 電子伝達系 Complex III

です。電子が完全に酸素へ渡らずに漏れることで、スーパーオキシドが発生します。

重要なのは、ROS産生が単なる「ミス」ではなく、

  • 電子フロー
  • 膜電位
  • 代謝状態

に応じて能動的に変化する点です。

ROSはなぜシグナルになれるのか

H2O2は、

  • プロテインホスファターゼ
  • 転写因子
  • キナーゼ

などの活性を一時的に変化させます。

これにより

  • HIF-1αの安定化
  • NF-κB活性化
  • MAPK経路調節

といった転写・応答プログラムが起動します。

ROSと低酸素応答(HIFシグナル)

低酸素条件下では、ミトコンドリア由来ROSが増加し、HIF-1αの分解を抑制します。

これにより

  • 解糖系遺伝子の誘導
  • 血管新生因子(VEGF)の発現

が促進され、細胞は低酸素環境へ適応します。ここでもROSは「酸化ストレス」ではなく環境センサーとして機能しています。

ROSと免疫・炎症応答

mtROSは自然免疫応答にも深く関与します。

  • NLRP3インフラマソーム活性化
  • マクロファージ活性化
  • 抗菌応答増強

などにおいて、mtROSは重要なトリガーです。

一方で、過剰なROSは慢性炎症を引き起こし、組織障害や発がんの温床にもなります。

抗酸化=善、ROS=悪ではない

ビタミンCやEなどの抗酸化物質はROSを除去しますが、

  • ROSシグナルの遮断
  • 生理的適応反応の抑制

を引き起こす可能性もあります。実際、抗酸化剤投与が必ずしも寿命延長やがん抑制につながらないことも報告されています。

重要なのは、ROSをゼロにすることではなく、適切に制御することです。

ROS制御とミトコンドリア品質管理

ミトコンドリアは

  • SOD2
  • ペルオキシレドキシン
  • グルタチオン系

といった抗酸化システムを備えています。

さらに、過剰なROSを産生するミトコンドリアは、ミトファジーによって選択的に除去されます。この点からも、ROSは品質管理のシグナルとして機能しているといえます。


次回は、ミトコンドリアがどのようにして細胞死を制御するのか、アポトーシスを中心に解説します。

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