第7回:免疫とミトコンドリア ― 炎症の震源地 ―

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

ミトコンドリアは「静かな発電所」ではない

ミトコンドリアと聞くと、多くの人がATP産生、すなわち細胞のエネルギー工場を思い浮かべます。しかし近年、この認識は大きく書き換えられつつあります。
ミトコンドリアは、炎症や免疫応答を引き起こす“震源地”にもなり得るのです。

とくに注目されているのが、ミトコンドリア由来の分子が自然免疫を直接活性化する仕組みです。その中心にあるのが、mtDNA(ミトコンドリアDNA)です。


mtDNAはDAMPとして働く

自然免疫は本来、細菌やウイルスなどの「非自己」を検知する仕組みですが、近年では自己由来の異常分子にも反応することが分かってきました。これらは DAMP(Damage-Associated Molecular Patterns) と呼ばれます。

mtDNAは、DAMPとして非常に強力な分子です。

その理由は、mtDNAが以下の特徴を持つためです。

  • 細菌由来DNAに似た CpGモチーフ を含む
  • ヒストンで保護されていない
  • 酸化ストレスを受けやすい

通常、mtDNAはミトコンドリア膜に厳重に隔離されています。しかし、ミトコンドリア障害やストレスが起こると、mtDNAが細胞質へ漏れ出し、免疫センサーに認識されます。


cGAS–STING経路:mtDNAを感知する中枢回路

細胞質に漏出したmtDNAを感知する代表的な経路が cGAS–STING経路 です。

  • cGAS は細胞質DNAセンサー
  • mtDNAを認識すると cGAMP を合成
  • STING を活性化
  • I型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導

もともとこの経路はウイルスDNAを検知するためのものですが、自己由来のmtDNAでも強力に活性化されることが分かっています。

実際、以下のような状況でcGAS–STINGは作動します。

  • ミトコンドリア膜透過性の破綻
  • アポトーシスやネクローシスの途中段階
  • ミトコンドリア品質管理の破綻

このことは、「ミトコンドリアの状態」がそのまま免疫活性の指標になっていることを意味します。


NLRP3インフラマソームとミトコンドリア

もう一つ、ミトコンドリアと密接に結びつく炎症機構が NLRP3インフラマソーム です。

NLRP3は以下の刺激に反応します。

  • ミトコンドリア由来ROS
  • 酸化されたmtDNA
  • ミトコンドリア膜電位の低下

活性化されたNLRP3は、カスパーゼ-1を介して

  • IL-1β
  • IL-18

といった強力な炎症性サイトカインを成熟・分泌させます。

重要なのは、NLRP3活性化にミトコンドリアそのものが足場として関与する点です。NLRP3はミトコンドリア外膜近傍にリクルートされ、mtDNAやROSを局所的に感知すると考えられています。


なぜミトコンドリアが免疫を司るのか?

この深い関係には、進化的な理由があります。

ミトコンドリアはもともと αプロテオバクテリア由来の共生体 です。
つまり、免疫系から見れば、

ミトコンドリア ≒ かつての細菌

という側面を持っています。

そのため、ミトコンドリアが破綻し、内部成分が露出すると、免疫系はそれを「感染シグナル」と誤認してしまうのです。


炎症性疾患との関連

ミトコンドリア由来炎症は、以下の病態と強く結びついています。

  • 自己免疫疾患
  • 神経変性疾患
  • 代謝性疾患
  • がん微小環境における慢性炎症

「なぜ慢性炎症が止まらないのか?」という問いに対し、ミトコンドリア障害の持続という視点は、非常に説得力のある答えを与えてくれます。


まとめ:ミトコンドリアは免疫のスイッチである

ミトコンドリアは単なるエネルギー産生器官ではありません。

  • mtDNAは強力なDAMP
  • cGAS–STING経路を活性化
  • NLRP3インフラマソームの中心的足場

ミトコンドリアの健全性は、免疫の暴走を防ぐ最後の砦とも言えます。

次回は、このミトコンドリアが がん細胞でどのように再プログラムされているのか を掘り下げます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*