第9回:老化とミトコンドリア ― なぜ年を取ると弱るのか ―

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老化は「エネルギー切れ」ではない

年を取ると、

  • 疲れやすくなる
  • 組織の回復が遅くなる
  • 炎症が慢性化する

こうした現象は、単なる「体力低下」では説明できません。
現在の老化研究では、ミトコンドリア機能の質的劣化が、これらの変化を統合的に説明すると考えられています。

重要なのは、

老化とはATPが作れなくなることではない

という点です。
むしろ、「不完全に働くミトコンドリア」が増えることが問題なのです。


mtDNA変異はなぜ蓄積するのか

ミトコンドリアは独自のゲノム(mtDNA)を持ちますが、これにはいくつかの弱点があります。

  • ヒストンによる保護がない
  • 電子伝達系の近傍に存在する
  • 修復機構が核DNAより簡略

その結果、mtDNAは活性酸素(ROS)による損傷を受けやすいのです。

若い細胞では、変異を含むミトコンドリアは除去されますが、加齢とともにこの選別が甘くなり、変異mtDNAが蓄積していきます。


ヘテロプラスミーという「見えない問題」

mtDNA変異は、多くの場合すぐに表現型を引き起こしません。
これは、1細胞内に正常mtDNAと変異mtDNAが混在する ヘテロプラスミー 状態があるためです。

しかし、

  • 変異mtDNA比率が閾値を超える
  • 特定の組織でクローン的に増幅する

と、電子伝達系が破綻し、細胞機能が一気に低下します。

老化が徐々に、しかしある時点で急に進むように見えるのは、この現象とよく一致します。


ミトコンドリア品質管理の破綻

健康な細胞では、以下の仕組みによってミトコンドリアの品質が保たれています。

  • 融合・分裂による内容物の希釈と隔離
  • PINK1–Parkin経路を中心としたミトファジー
  • ミトコンドリア生合成とのバランス

加齢に伴い、これらの仕組みが次第に破綻します。

  • 分裂が不十分で不良ミトコンドリアが隔離できない
  • ミトファジーが低下し、除去が追いつかない
  • 生合成も低下し、更新が起こらない

結果として、「古くて質の悪いミトコンドリア」が細胞内に蓄積します。


幹細胞はなぜ老いるのか

幹細胞は、長期にわたって組織を維持するため、ミトコンドリア品質に極めて敏感です。

若い幹細胞では、

  • ミトコンドリア活性は低め
  • ROS産生を抑制
  • 解糖系優位

という代謝状態が保たれています。

しかし老化が進むと、

  • ミトコンドリア活性の異常上昇
  • ROS増加
  • 分化シグナルの誤作動

が起こり、幹細胞は

  • 枯渇
  • 異常分化
  • 自己複製能低下

へと向かいます。

つまり、幹細胞老化の本質はミトコンドリア制御の破綻とも言えます。


炎症と老化をつなぐミトコンドリア

老化組織では慢性炎症(inflammaging)が観察されます。
この背景にもミトコンドリアがあります。

  • mtDNA漏出
  • ミトコンドリアROS
  • cGAS–STINGやNLRP3の慢性活性化

これらが低レベルで持続することで、組織全体が炎症状態に固定されてしまいます。

老化とは、時間とともに蓄積する「ミトコンドリア由来炎症」と捉えることもできます。


まとめ:老化はミトコンドリア品質の問題である

  • mtDNA変異は避けられない
  • 問題はそれを除去できなくなること
  • 幹細胞機能低下・慢性炎症と直結する

老化の速度を決めているのは、
どれだけミトコンドリアの健全性を保てるか なのです。

次回はいよいよ最終回。
ミトコンドリアを どうやって「見て・測る」のか、研究現場で使われている技術をまとめます。

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