第10回:ミトコンドリア研究技術 ― どうやって“見て・測る”のか ―

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ミトコンドリア研究は「測定技術」で進化した

ミトコンドリアは、形態・代謝・シグナルのすべてがダイナミックに変化するオルガネラです。
そのため、

何を、どの時間軸で、どの解像度で見るか

が研究の成否を大きく左右します。

近年のミトコンドリア研究の加速は、測定技術の進歩そのもの と言っても過言ではありません。


Seahorse解析:エネルギー代謝をリアルタイムで測る

最も広く使われている代謝解析法の一つが Seahorse XF Analyzer です。

この装置では、

  • OCR(酸素消費率) → OXPHOS活性
  • ECAR(細胞外酸性化率) → 解糖活性

をリアルタイムで測定できます。

典型的なミトコンドリアストレステストでは、

  • オリゴマイシン(ATP合成阻害)
  • FCCP(脱共役剤)
  • ロテノン/アンチマイシンA(電子伝達系阻害)

を順次添加し、

  • 基礎呼吸
  • ATP産生依存呼吸
  • 最大呼吸能
  • 予備呼吸能

を定量します。

「OXPHOS依存か、解糖依存か」を一発で可視化できるのが最大の強みです。


膜電位プローブ:ミトコンドリアの“健康度”を見る

ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)は、電子伝達系の健全性を反映する重要な指標です。

代表的な蛍光プローブには、

  • JC-1:高膜電位で赤、低膜電位で緑
  • TMRE / TMRM:膜電位依存的に集積
  • Rhodamine 123

などがあります。

これらは、

  • フローサイトメトリー
  • 共焦点顕微鏡
  • ライブセルイメージング

で使用可能です。

膜電位低下は、

  • アポトーシス初期
  • ミトコンドリア障害
  • ミトファジー誘導

の早期指標として非常に有用です。


ミトコンドリア形態解析:融合と分裂を捉える

ミトコンドリアは静的な豆状構造ではありません。

  • 細長くネットワーク化(融合優位)
  • 断片化(分裂優位)

といった形態変化は、機能状態を強く反映します。

解析手法としては、

  • MitoTracker染色
  • ミトコンドリア標的蛍光タンパク
  • 超解像顕微鏡

が使われます。

形態解析は、代謝・ストレス応答・細胞運命との関連を読み解く重要な情報源です。


ミトコンドリア特異的プロテオミクス

ミトコンドリアは1000種類以上のタンパク質から構成されます。
その全体像を捉えるために、ミトコンドリア特異的プロテオミクス が用いられます。

主なアプローチは、

  • 細胞分画によるミトコンドリア精製
  • 質量分析による網羅的タンパク同定
  • 定量プロテオミクスによる条件間比較

最近では、

  • 近接標識(APEX, BioID)
  • ストレス条件特異的プロテオーム

など、局所・動的解析 も進んでいます。


mtDNA解析:コピー数と変異を測る

mtDNAに関する解析も重要です。

  • コピー数:qPCRで核DNAとの比を測定
  • 変異解析:NGSによるヘテロプラスミー評価
  • 漏出評価:細胞質画分でのmtDNA定量

これらは、

  • 老化
  • 炎症
  • がん代謝

との関連解析に頻用されます。


技術を組み合わせて「ミトコンドリア像」を描く

単一の手法だけで、ミトコンドリアの全体像を捉えることはできません。

  • Seahorseで機能を見る
  • 膜電位で健全性を見る
  • 形態で状態を見る
  • オミクスで分子基盤を見る

これらを組み合わせて初めて、

この細胞のミトコンドリアは
いま何をしているのか

が見えてきます。


まとめ:ミトコンドリアは「測れる」時代に入った

  • 機能はリアルタイムで測定できる
  • 形態はライブで追跡できる
  • 分子構成は網羅的に解析できる

ミトコンドリア研究は、もはや「ブラックボックス」ではありません。
どう測るかを知ることが、どう考えるかを決める 時代です。

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