はじめに
従来のCRISPR-Cas9は「切って修復させる」技術でした。
しかしDNA二本鎖切断(DSB)には、
- 予測不能なindel
- 染色体転座
- p53活性化
といったリスクがあります。
そこで登場したのが、
DNAを切らずに書き換える技術です。
1. ベースエディター(Base Editor)
ベースエディターは、
- Cas9ニッカーゼ(nCas9)
- 脱アミノ化酵素
を融合した人工タンパク質です。
Cas9は片鎖のみを切断し、
脱アミノ化酵素が塩基を化学的に変換します。
① CBE(Cytosine Base Editor)
C → T 変換を誘導
仕組み:
C → U(脱アミノ化)
修復過程で U → T に固定
② ABE(Adenine Base Editor)
A → G 変換を誘導
A → I(イノシン)
IはGとして認識される
ベースエディターの特徴
- DSBを伴わない
- HDR不要
- 効率が高い
- ただし変換可能な塩基が限定される
ヒト疾患変異の約半数は点変異であるため、
非常に大きな臨床的ポテンシャルがあります。
2. プライムエディティング(Prime Editing)
より柔軟な編集を可能にしたのが
Prime editing
です。
開発者は David Liu ら。
仕組み
構成要素:
- nCas9
- 逆転写酵素(RT)
- pegRNA(拡張ガイドRNA)
pegRNAは:
- 標的配列指定
- 書き換え配列情報
- RTテンプレート
を同時に含みます。
編集の流れ
- nCas9が片鎖切断
- pegRNAを鋳型に逆転写
- 新配列がゲノムに組み込まれる
- 修復により固定
これにより、
- 塩基置換
- 小規模挿入
- 小規模欠失
が可能になります。
3. ベースエディター vs プライムエディティング
| 特徴 | ベースエディター | プライム編集 |
|---|---|---|
| DSB | なし | なし |
| 変換可能範囲 | 限定 | 広い |
| 設計難易度 | 比較的簡単 | やや複雑 |
| 精密性 | 高い | 非常に高い |
4. なぜ「切らない」ことが重要か?
DSBは細胞にとって強いストレスです。
- p53活性化
- 大規模欠失
- 予期せぬ染色体再構成
特に臨床応用では、安全性が最重要です。
切らない編集は、
精密医療への橋渡し技術
といえます。
5. 限界と課題
ベースエディター
- 編集ウィンドウ制限
- バイスタンダー変異
プライム編集
- 効率が細胞種依存
- in vivo応用は発展途上
現在は送達技術(AAV, LNPなど)との統合が研究されています。
6. 概念的意義
従来のゲノム編集は
「壊す技術」
でした。
一方、これらの技術は
「精密に修復する技術」
です。
これは医学的にも哲学的にも大きな転換点です。
まとめ
ベースエディターとプライムエディティングは:
- DSB不要
- 精密な点変異導入が可能
- 臨床応用に近い
次世代ゲノム編集の中心技術です。