⚠️本記事は私自身の医師としての備忘録として作成したものであり、内容の正確性・最新性を保証するものではありません。医療行為は必ず最新の診療ガイドラインや上級医の指導のもとで行ってください。記載内容によって生じた損害やトラブルについて、筆者は一切責任を負いません。あくまで参考程度にお願いします。

はじめに

風邪(感冒)症状の患者さんは、一般外来で非常に多く遭遇する疾患のひとつです。しかし、症状に応じた薬の「選び分け」が意外と難しいもの。
この記事では、風邪症状を構成する主な症状(咳・痰・鼻水・喉の痛み・発熱・倦怠感など)に対して、よく使われる薬剤の種類と作用機序、そして実際の使い分けのコツを、若手医師の視点でまとめておきます。


目次

  • 咳止め(鎮咳薬)
  • 去痰薬(去痰・粘液調整薬)
  • 解熱鎮痛薬
  • 鼻炎薬(抗ヒスタミン薬・血管収縮薬)
  • 漢方薬
  • 補足:抗菌薬はいつ出すか?
  • 実臨床での使い分けまとめ

1. 咳止め(鎮咳薬)

代表薬と分類

分類薬剤名作用機序コメント
中枢性鎮咳薬デキストロメトルファン(メジコン®)咳中枢抑制比較的安全。軽度の咳に
中枢性鎮咳薬コデイン(リン酸コデイン)オピオイド受容体作用効果は強いが眠気・便秘あり。原則慎重に
末梢性鎮咳薬チペピジン(アスベリン®)気道感受性抑制小児にも使用される定番薬
末梢性鎮咳薬クロペラスチン(セキコデ®)気管支への抗ヒスタミン作用咳+アレルギー傾向に◎

使い分けのコツ

  • 咳が強くて寝れないタイプ → 中枢性(メジコンやコデイン)
  • 軽度で日中気になる程度 → チペピジンやクロペラスチン
  • 喘息や咳喘息の可能性あり? → 咳止めだけでなく吸入薬の検討を

2. 去痰薬(去痰・粘液調整薬)

代表薬と分類

分類薬剤名作用機序コメント
粘液調整薬アンブロキソール(ムコソルバン®)肺サーファクタント増加最もよく使われる去痰薬
粘液溶解薬N-アセチルシステイン(NAC)粘液のジスルフィド結合切断痰が濃い患者に◎
気道潤滑薬ブロムヘキシン(ビソルボン®)気道上皮の線毛運動促進アンブロキソールと似た作用

使い分けのコツ

  • 痰が多い/切れにくい → ムコソルバン or NAC
  • 高齢者で誤嚥リスクあり → 痰をやわらかくして出しやすくする意味で粘液調整薬を併用

3. 解熱鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン)

薬剤名分類作用機序コメント
アセトアミノフェン(カロナール®)非NSAIDs中枢作用で解熱・鎮痛小児・妊婦にも安全域広め
ロキソプロフェン(ロキソニン®)NSAIDsCOX阻害解熱・鎮痛に即効性。胃腸障害注意
イブプロフェン(ブルフェン®)NSAIDs同上小児にも使用。NSAIDsとしては比較的マイルド

使い分けのコツ

  • 妊婦・小児・胃潰瘍歴あり → アセトアミノフェン
  • 痛みが強い/効きが早い方がいい → NSAIDs系

4. 鼻炎薬(抗ヒスタミン薬・血管収縮薬)

分類薬剤名作用機序コメント
抗ヒスタミン薬(第1世代)クロルフェニラミン(ポララミン®)H1受容体遮断眠気ありだが効果強い
抗ヒスタミン薬(第2世代)ロラタジン・セチリジン等H1受容体遮断眠気少ないが即効性は弱め
血管収縮薬ナファゾリン(点鼻薬)α刺激 → 鼻粘膜血管収縮即効性あるが連用はNG(薬剤性鼻炎)

使い分けのコツ

  • 夜間の鼻閉がつらい → 第1世代+点鼻薬
  • 日中の鼻水・くしゃみがメイン → 第2世代
  • 花粉症既往あり? → 抗アレルギー薬の継続処方も検討

5. 漢方薬(風邪に使える処方)

漢方名使える症状コメント
葛根湯初期のゾクゾク・肩こり発汗させて治すイメージ。高齢者や脱水に注意
麻黄湯発熱・寒気・関節痛体力ある人向け。頻脈・高血圧では注意
小青竜湯水様性の鼻水・咳アレルギー性鼻炎にも併用されることあり
麦門冬湯乾いた咳長引く空咳に◎

6. 補足:抗菌薬はいつ出す?

風邪のほとんどはウイルス性です。原則、抗菌薬は不要です。

ただし、以下の場合は細菌感染を疑い抗菌薬を検討してもよい状況です:

  • 扁桃に白苔や膿栓が明らか(溶連菌など)
  • 38.5℃以上の高熱が持続、膿性鼻汁が長引く
  • 急性副鼻腔炎・気管支炎の合併が明らか

▶︎ 第一選択はアモキシシリン、またはクラバモックスなど。


7. 外来実践!処方パターン例

例1:軽い喉の痛み+鼻水

  • カロナール®
  • 小青竜湯 or 抗ヒスタミン薬(ポララミン®)

例2:咳がひどくて眠れない

  • メジコン®+アスベリン®
  • ムコソルバン®
  • 麦門冬湯 or 去痰薬併用

例3:倦怠感と発熱のみ

  • カロナール® or ロキソニン®(消化器リスク考慮)
  • 葛根湯(初期なら)

おわりに

「風邪に効く薬」は存在しませんが、症状に合わせて適切に対処することが患者さんの満足度を高め、不要な抗菌薬使用を減らすカギです。

少しでも若手医師・研修医の参考になれば嬉しいです!