1970年代前半:バイオテクノロジーの夜明け
1972〜1975年は、生命科学が
- 分子構造の理解
- 免疫の多様性
- 遺伝子操作技術
へと一気に拡張した時代です。
この時期には、
「生命を理解する」から「生命を操作する」へ
という大きな転換が始まります。
1972年
化学伝達とシナプスの精密理解
1972年のノーベル生理学・医学賞は
- Bernard Katz
- Ulf von Euler
- Julius Axelrod
に授与されました(※実際の授与は1970年の研究内容の発展的評価)。
神経伝達の量子性
Katzらは、
神経伝達物質の放出が
小胞単位(クオンタル放出)
で行われることを示しました。
これはシナプス伝達の理解を
確率的・分子的現象
へと進化させました。
1973年
細胞膜の流動モザイクモデル
1973年前後には
- Seymour Jonathan Singer
- Garth L. Nicolson
によって
- Fluid mosaic model
が提唱されました(ノーベル賞外の重要概念)。
細胞膜は動く構造だった
このモデルでは、細胞膜は
- 脂質二重層
- 可動性タンパク質
からなる
動的で流動的な構造
として説明されました。
これは
- 受容体
- シグナル伝達
- 細胞接着
理解の基盤となります。
1974年
免疫グロブリン構造の解明
1974年のノーベル生理学・医学賞は
- Rodney Robert Porter
- Gerald Maurice Edelman
に授与されました。
抗体の分子構造
彼らは
- Immunoglobulin
の構造を解明し、
- 可変領域
- 定常領域
の存在を明らかにしました。
多様性の仕組みの出発点
この研究は後に、
抗体の膨大な多様性がどのように生まれるかを解明する研究へとつながります。
1975年
腫瘍ウイルスと遺伝子発現
1975年のノーベル生理学・医学賞は
- David Baltimore
- Renato Dulbecco
- Howard Martin Temin
に授与されました。
逆転写酵素の発見
彼らは
- Reverse transcriptase
を発見し、
RNA → DNA
という情報の流れが存在することを示しました。
セントラルドグマの拡張
この発見により、
- DNA → RNA → タンパク質
という一方向の流れに加え、
RNAからDNAへ戻る経路
が存在することが明らかになりました。
この4年間の科学的意義
1972〜1975年は、生命科学が
構造・多様性・操作
という新しい段階に入った時代でした。
① 細胞膜とシグナルの統合理解
流動モザイクモデルにより、
細胞は
動的な情報処理プラットフォーム
として理解されるようになりました。
② 免疫多様性の分子基盤
抗体構造の解明は、
免疫系がどのように無限に近い多様性を生み出すかを理解する第一歩となりました。
③ 遺伝子操作時代の幕開け
逆転写酵素の発見は、
後の
- cDNAクローニング
- 遺伝子組換え技術
へと直結します。
まとめ
| 年 | 受賞者 | 主題 |
|---|---|---|
| 1972 | Katzら | 神経伝達 |
| 1973 | (概念) | 細胞膜モデル |
| 1974 | Porter & Edelman | 抗体構造 |
| 1975 | Baltimoreら | 逆転写酵素 |
1972〜1975年は
生命を「理解する」から「操作する」へ
と進んだ、バイオテクノロジー時代の出発点でした。
次回予告
次回は
第19回:1976〜1979年
を解説します。
ここでは
- プリオンの概念
- DNA組換え技術の確立
- CTスキャンの登場
など、現代医療技術の直接的基盤が形成されていきます。