老化は「エネルギー切れ」ではない
年を取ると、
- 疲れやすくなる
- 組織の回復が遅くなる
- 炎症が慢性化する
こうした現象は、単なる「体力低下」では説明できません。
現在の老化研究では、ミトコンドリア機能の質的劣化が、これらの変化を統合的に説明すると考えられています。
重要なのは、
老化とはATPが作れなくなることではない
という点です。
むしろ、「不完全に働くミトコンドリア」が増えることが問題なのです。
mtDNA変異はなぜ蓄積するのか
ミトコンドリアは独自のゲノム(mtDNA)を持ちますが、これにはいくつかの弱点があります。
- ヒストンによる保護がない
- 電子伝達系の近傍に存在する
- 修復機構が核DNAより簡略
その結果、mtDNAは活性酸素(ROS)による損傷を受けやすいのです。
若い細胞では、変異を含むミトコンドリアは除去されますが、加齢とともにこの選別が甘くなり、変異mtDNAが蓄積していきます。
ヘテロプラスミーという「見えない問題」
mtDNA変異は、多くの場合すぐに表現型を引き起こしません。
これは、1細胞内に正常mtDNAと変異mtDNAが混在する ヘテロプラスミー 状態があるためです。
しかし、
- 変異mtDNA比率が閾値を超える
- 特定の組織でクローン的に増幅する
と、電子伝達系が破綻し、細胞機能が一気に低下します。
老化が徐々に、しかしある時点で急に進むように見えるのは、この現象とよく一致します。
ミトコンドリア品質管理の破綻
健康な細胞では、以下の仕組みによってミトコンドリアの品質が保たれています。
- 融合・分裂による内容物の希釈と隔離
- PINK1–Parkin経路を中心としたミトファジー
- ミトコンドリア生合成とのバランス
加齢に伴い、これらの仕組みが次第に破綻します。
- 分裂が不十分で不良ミトコンドリアが隔離できない
- ミトファジーが低下し、除去が追いつかない
- 生合成も低下し、更新が起こらない
結果として、「古くて質の悪いミトコンドリア」が細胞内に蓄積します。
幹細胞はなぜ老いるのか
幹細胞は、長期にわたって組織を維持するため、ミトコンドリア品質に極めて敏感です。
若い幹細胞では、
- ミトコンドリア活性は低め
- ROS産生を抑制
- 解糖系優位
という代謝状態が保たれています。
しかし老化が進むと、
- ミトコンドリア活性の異常上昇
- ROS増加
- 分化シグナルの誤作動
が起こり、幹細胞は
- 枯渇
- 異常分化
- 自己複製能低下
へと向かいます。
つまり、幹細胞老化の本質はミトコンドリア制御の破綻とも言えます。
炎症と老化をつなぐミトコンドリア
老化組織では慢性炎症(inflammaging)が観察されます。
この背景にもミトコンドリアがあります。
- mtDNA漏出
- ミトコンドリアROS
- cGAS–STINGやNLRP3の慢性活性化
これらが低レベルで持続することで、組織全体が炎症状態に固定されてしまいます。
老化とは、時間とともに蓄積する「ミトコンドリア由来炎症」と捉えることもできます。
まとめ:老化はミトコンドリア品質の問題である
- mtDNA変異は避けられない
- 問題はそれを除去できなくなること
- 幹細胞機能低下・慢性炎症と直結する
老化の速度を決めているのは、
どれだけミトコンドリアの健全性を保てるか なのです。
次回はいよいよ最終回。
ミトコンドリアを どうやって「見て・測る」のか、研究現場で使われている技術をまとめます。