研究

第3回:空間オミックスの分類学 —何が“全転写”を測り、何が“局在”を語れるのか—

空間オミックスは技術名が多く、一見すると“道具のカタログ”のように見えます。
しかし本質はシンプルで、**「何を測り、どの粒度で空間に固定するか」**という3つの次元で整理すると一気に理解しやすくなります。

本記事では、空間オミックスをキャプチャ型/イメージング型/ハイブリッド型の3系統に分類し、それぞれの

  • 測定原理
  • 得られる情報の解像度
  • 強み・弱み
  • 向いている研究目的
    を“研究設計の視点”から解説します。

1. キャプチャ型(Sequencing-based, Capture-based)

例:10x Visium、Visium HD、Slide-seq / Slide-seqV2 など


1-1. 原理:バーコード化された基板がmRNAを捕捉し、RNA-seqで読む方式

  • 組織切片をバーコード付き基板(スポット or ビーズ)に密着
  • mRNAがバーコード上で逆転写され、位置情報が付いたcDNAとして回収
  • 読み出しはRNA-seq(=網羅的・全転写)

1-2. 得られる情報

  • “スポット単位の全転写プロファイル”
  • スポットサイズは手法により異なり、一般には1スポット=複数細胞の混合
  • Visium HDやSlide-seqV2ではスポットが小型化し、より高解像度に近づく

1-3. 強み

  • 網羅性:ほぼ全遺伝子を対象にできる
  • スループットが高い:大面積を比較的容易にカバー
  • scRNA-seqとの統合(デコンボリューション)が標準パイプライン化

1-4. 弱み

  • スポット混合:単一細胞の分解能は理論的に得られない
  • 局在の議論は“スポット中心”に制限される
  • 空間解像度はイメージング型より粗い

1-5. 向いている研究

  • 腫瘍微小環境の大まかな構造把握(免疫浸潤パターンなど)
  • 組織内の“細胞集団の領域化”(epithelial/basal/immuneなど)
  • scRNA-seqから得られた細胞型を空間に投影したい場合
  • 大面積・複数検体を比較する解析(臨床検体向け)


2. イメージング型(Imaging-based, In situ hybridization)

例:MERFISH、seqFISH、CosMx SMI、Xenium、MERSCOPE など


2-1. 原理:mRNAをその場(in situ)で直接“見て数える”

  • 標的RNAに対するプローブを反復ハイブリダイゼーション
  • 色やフローの組み合わせ=バーコード
  • 組織内のmRNA分子を**点(ドット)**として検出

2-2. 得られる情報

  • 細胞レベル、場合により亜細胞レベルの位置情報
  • RNA分子の“個数・座標”が1分子単位で得られる
  • カバー遺伝子数は数十〜数千(機種により幅あり)

2-3. 強み

  • 空間解像度が最も高い(細胞境界・細胞間接触を精密に議論できる)
  • 細胞の局在・配置・近接などの空間パターン検出が得意
  • 混合がない:細胞単位で遺伝子を観察できる

2-4. 弱み

  • 網羅性が限定(ターゲット遺伝子パネル方式)
  • 試料調整と画像解析が重い(取得画像量が膨大)
  • 装置コスト・運用コストが高い

2-5. 向いている研究

  • 腫瘍内の“ニッチ(微小環境)”の精密解析
  • シグナル局在(膜/核/細胞極性)などの観察
  • 細胞間相互作用の直接的推定(細胞境界情報が正確)
  • 特定パスウェイや免疫チェックポイントの高精度空間解析


3. ハイブリッド型(Spatial proteogenomics など)

例:NanoString CosMx(RNA+タンパクの並列)、Slide-tags、In situ sequencing 系 など


3-1. 原理:RNAとタンパク質を“空間で同時測定”または“核情報を空間タグ化”

  • RNAプローブと抗体ベースのプローブを並列
  • または、核に空間バーコードを付与 → 単一核RNA-seqで読み出す
  • 計測原理はイメージング型+シーケンス型が融合したもの

3-2. 得られる情報

  • RNAとタンパク質を同じ細胞・同じ座標で測定
  • タンパク質の局在(膜・細胞質)を含むマルチモーダル空間情報
  • 核から抽出される“空間付きsnRNA-seq”など、新規手法も登場

3-3. 強み

  • 多層情報の統合(RNA+タンパク+空間)の一貫性
  • 細胞型推定の確度が高い
  • 機能的パスウェイを空間で直接検証しやすい

3-4. 弱み

  • 依然としてパネル方式が多い
  • キャプチャ型ほど網羅的ではない
  • 装置コストとデータ解析負荷が高い

3-5. 向いている研究

  • 腫瘍免疫微小環境(TIMEs)の精密解析
  • タンパク局在を含む“機能的空間マッピング”
  • バルク/単一細胞/空間を一体化したプロジェクト


4. 研究者がまず決めるべき“3つの判断軸”

空間オミックス選択の最短ルートは、この3点です。


① 解像度:細胞単位で見たいのか、領域単位で十分か?

  • 単一細胞の配置/相互作用 → イメージング型
  • 組織全体の領域構造 → キャプチャ型

② 網羅性:全遺伝子を見たいか?特定のパスウェイか?

  • 全転写 → キャプチャ型
  • ターゲットパスウェイ(免疫、がん幹細胞など) → イメージング型 or ハイブリッド型

③ 試料条件:FFPEを使うのか?面積はどれくらいか?

  • FFPE多い → Visium FFPE, CosMx, Xenium
  • 大面積 → キャプチャ型が効率的
  • 細胞境界が重要 → イメージング型


5. 典型的な誤解とその回避法


誤解1:空間解析=“細胞1つ1つのRNAを地図にする”

→ キャプチャ型はスポット混合。
単細胞解像度はイメージング型でのみ達成可能。


誤解2:パネル方式は“情報が少ないから劣っている”

→ イメージング型は“局在”が主役。
特定パスウェイを空間で見たい研究では最強。


誤解3:細胞型推定はscRNA-seqで十分

→ 空間は“配置”が本質。
同じ細胞種でも隣接する相手によって状態が変わる(腫瘍免疫では常識)。
空間なしのscRNA-seqでは見えない層。



6. まとめ:空間オミックスは“問いによって道具が決まる”

  • 何を測る?(RNA/タンパク質/両方)
  • どんな解像度が必要?(領域/細胞/亜細胞)
  • 網羅性か局在精度か?
  • 試料制約(FFPE/凍結)

空間トランスクリプトームの設計図:試料からQCまで(Visium/Slide-seq系の現実的チェックリスト)

空間トランスクリプトーム(キャプチャ型)で結果が「読み物」になるか「ノイズの地図」になるかは、実験設計の最初の3つの選択でほぼ決まります:**試料(凍結/FFPE)→前処理(透過・酵素・時間)→画像/座標整合(整列)**です。

まず、キャプチャ型の代表例であるVisium系は、組織切片上のバーコード領域(スポット)にRNAを捕捉し、シーケンスで読み出します。解析面では、画像(明視野/蛍光)とシーケンス由来の特徴量行列を結びつける“空間整合”が中核で、この処理の標準化が結果の再現性を大きく左右します(Space RangerはVisium向けの標準パイプラインとして、画像整列・特徴量行列生成・二次解析の枠組みを提供します)。 10x Genomics+210x Genomics+2

次に、QCの実質は「スポットの中身をどこまで“単一細胞”に近づけられるか」に尽きます。キャプチャ型では1スポットが複数細胞を含み得るため、解析の前提として

  • 1スポット=混合(混合比が場所で変わる)
    を最初から織り込むのが安全です。ここでの失敗例は、スポットを“単細胞”として扱ってしまい、局所での発現差を“細胞型の差”だと誤読するケースです(逆に、混合の中に“希少細胞の署名”が埋もれることもある)。

Slide-seq/Slide-seqV2系は、ビーズ上の空間バーコードで解像度を高め、より細かい“近傍”の構造を拾いやすくする方向の技術です。研究例として、疾患文脈での局所的な細胞近傍(cell neighborhood)や局所的な応答プログラムの検出が報告されています。 Science+2PMC+2

最後に、実験設計の実務的チェックリストをまとめると、次が“最低ライン”です。

  • 試料:採取から凍結/固定までの時間(RINに相当する“劣化”の実感)
  • 切片:厚み・乾燥条件(過乾燥や過湿が透過の再現性を崩す)
  • 透過処理:過不足が検出遺伝子数に直撃(短すぎ→感度低、長すぎ→拡散・ブレ)
  • 画像整列:組織輪郭とスポット配列のミスマッチが“空間誤差”として全解析に波及
  • 解析の最初の可視化:遺伝子数/UMI分布、組織境界での急変、明らかなアーティファクト(裂け目・折れ・気泡)を先に潰す

この回の結論はシンプルで、空間解析は「生物学」より先に「幾何学(座標の正しさ)」が勝敗を分ける、ということです。

空間オミックス入門:キャプチャ型とイメージング型—距離・解像度・スループットの地図

空間オミックス(spatial omics)の核心は、“発現量”を“座標”に固定することです。従来のRNA-seqが「どの遺伝子がどれだけあるか」だけを返すのに対し、空間オミックスは「どの場所の細胞(あるいは微小領域)で、どの遺伝子が動いているか」を同時に返します。ここが、腫瘍微小環境・免疫浸潤・組織リモデリングの“因果の糸口”になるのが強みです。

空間オミックスは大きく二つの系統に分けるのが理解しやすいです。

  1. キャプチャ型(シーケンスベース)
  • 代表例:10x Genomics Visium(およびVisium HDなどの派生)
  • 何が起きる?:組織切片上のバーコード化された領域(スポット)でmRNAを捕まえ、cDNA化してRNA-seqとして読める形にする。
  • つまり得られるもの:“スポット単位の全体転写(ほぼ全転写)”(多くの場合、1スポットが複数細胞の混合を含む)
  • 解析の出発点:画像(明視野/蛍光)とシーケンス由来のカウント行列を整合させ、座標付きの遺伝子発現マップを作る(例:Space RangerはVisiumの標準パイプラインとして、画像整列と特徴量行列生成を担う)。 10x Genomics+210x Genomics+2
  1. イメージング型(in situ ハイブリダイゼーション系)
  • 代表例:MERFISH(multiplexed error-robust FISH)など
  • 何が起きる?:組織内のRNA分子を、反復ハイブリダイゼーション+読み出しで「遺伝子ごとのバーコード」を直接可視化する。
  • つまり得られるもの:細胞内(場合によっては亜細胞)まで含めた“分子座標”の精密地図(細胞境界や局在の議論がしやすい)。 PubMed+2Nature+2

さらに近年は、両者の“いいとこ取り”を狙う発展系も増えています。例えば、Slide-seq/Slide-seqV2はビーズ上のバーコードで高解像度に近づきつつ、シーケンスで読み出す設計(キャプチャ型寄りの高解像度化)で、実際の研究では組織内の「近接する細胞近傍(cell neighborhoods)」の検出に強いとされています。 Science+2PMC+2
また、Slide-tagsのように組織内の核へ空間バーコードを付与して、単一核プロファイリング系の入力に載せる発想(空間×単一核の橋渡し)も登場しています。 Nature

最後に、技術選定の“最短判断”は次の問いで決まります:

  • 問いが「細胞種(誰がいるか)」中心なら:scRNA-seq統合(デコンボリューション)前提のキャプチャ型が効きやすい
  • 問いが「細胞の配置・局在(どこにいるか)」中心なら:イメージング型の空間精度が効く
  • 臨床検体(FFPE等)での実装性が最優先なら:各プラットフォームの対応試料条件(FFPE/凍結)と感度の現実(検出遺伝子数)を先に当てる(商用/実装の差が結果の“見え方”を左右する)

第9回:インフルエンザ研究の最前線(ウイルス進化・宿主適応)

■ 1. インフルエンザ進化のドライバー:高変異率と再集合(リ・アソート)

インフルエンザウイルスが急速に進化する理由は主に2つあります:

●(1)RNAポリメラーゼの高エラー率

インフルエンザのポリメラーゼは校正機能がなく、
1回の複製で大量の変異を蓄積します。

→ 毎年の「抗原ドリフト」を駆動。

●(2)8分節ゲノムによる再集合(Reassortment)

異なるインフルエンザ株が同じ細胞に感染すると、
8つのRNAセグメントが混ざって新型ウイルスが生まれる

→ これが「抗原シフト」の本体。
→ 1918、1957、1968、2009年のパンデミックに関与。

最新研究では、再集合はランダムではなく、
特定のセグメント同士の相性やパッケージングシグナルの互換性が強く影響することがわかってきました。


■ 2. 宿主適応(Host adaptation):鳥 → ヒトへ

インフルエンザ研究の最前線では、「宿主の壁」を超える過程が詳しく解析されています。

●(1)受容体特異性:α2,3 → α2,6 シアリル基

  • 鳥インフルエンザ:α2,3結合シアル酸に結合
  • ヒトインフルエンザ:α2,6結合シアル酸を好む

宿主ジャンプには、HAのわずかなアミノ酸変異が重要。
例:Q226L、G228S など(H2/H3で有名)

近年の研究では、鼻腔の温度(鳥40℃、ヒト33℃)にも依存することが明らかになり、HA安定性が宿主適応に深く関与します。

●(2)ポリメラーゼ複合体の適応:PB2 E627K / D701N

パンデミックの鍵となる変異。

  • PB2 E627K:ヒト細胞での複製効率が劇的に向上
  • PB2 D701N:核移行効率が上昇

高病原性H5N1でも頻繁に観測される変異で、宿主適応の指標として研究が進んでいます。

●(3)NP、M1、NS1の宿主免疫逃避

  • NS1:IFN産生抑制の中心
  • NP・M1:パッケージングや宿主因子との相互作用で適応を補強

この複数因子の獲得が「人へ感染可能」への道筋になります。


■ 3. 伝播性の獲得:飛沫感染を可能にする条件

最新のフェレットモデル研究では、以下が伝播性の必須要因として注目されています:

●(1)HAのpH安定性

  • 低pHで早く解離すると、飛沫中での安定性が落ちる
    → 動物からヒトへの適応には 適度なpH安定化 が必要

●(2)HAの結合指向性(α2,6強化)

上気道の粘膜細胞に効率よく感染することで、ウイルス量が上昇。

●(3)ポリメラーゼの高効率化(PB2変異)

複製が高速化すると排出ウイルスが増加し、伝播性が高まる。


■ 4. ヒト集団免疫との「腕くらべ」:免疫エスケープ研究

最新のハイスループット中和マッピング研究では:

  • HAのどの部位に免疫圧がかかっているか
  • 次に変異しやすい“エスケープホットスポット”はどこか

が予測されるようになっています。

● 主な免疫エスケープ部位

  • HAの抗原決定基(Sa、Sb、Ca1、Ca2、Cb など)
  • NAの活性中心周辺

これらの部位への変異は、ワクチン更新に直接反映されるため研究が急速に進展。


■ 5. ユニバーサルワクチンへの挑戦

インフルエンザ研究の最前線の大きな目標は
「すべての型に効くユニバーサルワクチン」

● 有望なアプローチ

  • HA茎(stem)領域を標的とするワクチン
  • 多価ナノ粒子ワクチン
  • mRNAプラットフォーム
  • T細胞応答を強化するワクチン設計(NPやM1などを抗原に含める)

動物実験・初期臨床試験で順調に進んでいるものもあり、
10年スパンで実用化が期待されています。


■ まとめ

  • インフルエンザ進化は「高変異率 × 再集合」が駆動
  • 宿主適応には受容体特異性、ポリメラーゼ変異、免疫回避が必須
  • 伝播性獲得にはHAの安定性と複製効率が鍵
  • 最新研究は免疫エスケープの系統樹予測により、流行株推定精度が向上
  • ユニバーサルワクチンやmRNAワクチン開発が大きく前進

第8回:ワクチン開発の原理(不活化・生ワクチン・mRNA

■ インフルエンザワクチンの基本原理

インフルエンザワクチンの目的は、主にウイルス表面抗原である

  • HA(ヘマグルチニン)
  • NA(ノイラミニダーゼ)
    に対する中和抗体を誘導し、感染・重症化を防ぐことです。

抗原提示 → B細胞活性化 → 中和抗体産生
という免疫プロセスは、どの方式のワクチンでも共通しています。


■ 1. 不活化ワクチン(現在の標準)

● 特徴

  • ウイルスをホルマリンなどで「不活化」し、増殖できない状態で投与
  • インフルエンザの季節性ワクチンの主流(日本を含む多くの国で採用)

● メリット

  • 安全性が高い
  • 高齢者・乳児など幅広い対象に使用可能
  • 流行株に合わせた毎年の更新が容易

● デメリット

  • 局所・全身性の免疫が十分でないことがある
  • 効果の持続が短い(半年〜1年)
  • 何度も接種する必要がある

● 製造のポイント

  • ほとんどが鶏卵培養で生産される
  • 卵適応変異(egg-adaptation)が抗原性に影響することがある
    → ワクチン効果のばらつきの一因

■ 2. 生ワクチン(LAIV:弱毒化ワクチン)

● 特徴

  • 弱毒化されたウイルスを鼻腔内に投与
  • 米国など一部の国で使用(日本では通常使用されない)

● メリット

  • 自然感染に近い免疫応答
  • 粘膜免疫(IgA) が誘導され、感染防御効果が高い
  • 1回の投与で強い免疫が得られる

● デメリット

  • 基礎疾患を持つ人、乳幼児、高齢者には使用不可
  • ウイルスが非常に弱毒化されているとはいえ、生体内で増えるため注意が必要

● 独自の利点

鼻粘膜でウイルスが少し増殖 → 粘膜免疫・細胞性免疫が強く誘導
→ 不活化ワクチンより感染防御力が高いケースがある


■ 3. mRNAワクチン(開発が加速)

● 特徴

  • mRNAにHAなどの抗原情報を載せ、細胞に発現させる方式
  • COVID-19の成功を受けてインフルエンザでも複数の治験が進行中

● メリット

  • 栽培不要(卵に依存しない) → 株変更に迅速対応
  • mRNA配列の調整のみで更新可能
  • 粘膜以外でも高力価の抗体が誘導されやすい
  • 多価化が容易(複数HAを1本に混ぜるなど)

● デメリット

  • mRNA特有の副反応(局所痛・発熱)
  • 長期保存に低温が必要
  • 実用化は国や企業でまだ開発段階

● 期待される未来

  • パンデミック対応ワクチンとして極めて優秀
  • 「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発に向けた応用が進む

■ 方式ごとの比較

方式免疫強度安全性製造スピード主な利用
不活化中程度高い中程度現在の季節性ワクチンの主流
生ワクチン高い(粘膜免疫)中程度中程度特定国での小児など
mRNA高い高い(非感染性)非常に速い開発中・パンデミック対応

■ まとめ

  • 不活化ワクチンは現在の標準で、安全性と安定性に優れる
  • 生ワクチンは粘膜免疫を誘導し感染防御力が高いが、対象者に制限
  • mRNAワクチンは迅速な製造と高い免疫誘導で、新しい選択肢として期待
  • インフルエンザの変異速度と流行動態を考えると、より柔軟なmRNAプラットフォームが今後の中心になる可能性が高い

第7回:抗インフルエンザ薬の作用機序と耐性

■ 抗インフルエンザ薬の分類

現在臨床で使用される抗インフルエンザ薬は大きく以下の 3 系統に分けられます。

  1. ノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)
  2. キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(バロキサビル)
  3. M2イオンチャネル阻害薬(アマンタジン系)※現在は実質使用されない

A型・B型の双方に有効なのは NA阻害薬とバロキサビル です。


■ 1. ノイラミニダーゼ阻害薬(NA inhibitors)

● 代表薬

  • オセルタミビル(タミフル)
  • ザナミビル(リレンザ)
  • ラニナミビル(イナビル)
  • ペラミビル(ラピアクタ:静注)

● 作用機序

ウイルス表面の ノイラミニダーゼ(NA) は、感染細胞からウイルス粒子が離脱する際に必要な酵素です。
NA阻害薬はこの酵素をブロックし、以下を阻害します:

  • 感染細胞からのウイルス放出を阻害
  • ウイルスの拡散を抑制

発症後48時間以内の投与が最も有効。

● 耐性

代表的な変異:

  • H275Y(N1系):オセルタミビル耐性
  • R292K(N2系):ザナミビル以外に高度耐性

近年はワクチン接種率やウイルス遺伝子背景により、耐性株の流行は比較的抑えられています。


■ 2. バロキサビル(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬)

● 代表薬

  • バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)

● 作用機序

インフルエンザウイルスはmRNA合成の際に
“cap-snatching”(宿主mRNAのキャップを切り取って利用)
を行います。

バロキサビルはこれに必要な酵素
PAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性
を阻害し、ウイルスmRNAの合成を封じます。

→ 増殖初期に強い効果を持つ「1回投与」の薬。

● 耐性

  • **I38T/M変異(PA遺伝子)**が最も有名
  • 感染後のウイルスから出現しやすいが、伝播力はやや低下することが多い
  • 小児で耐性が出やすいことが報告され、使用指針に影響している

■ 3. M2イオンチャネル阻害薬(アマンタジン系)

● 代表薬

  • アマンタジン
  • リマンタジン

● 作用機序

M2イオンチャネルの働きを阻害し、ウイルス侵入後の**脱殻(uncoating)**を阻止します。

● 臨床ではほぼ使用されない理由

  • A型のほとんどが S31N変異により高度耐性
  • B型には構造的にM2タンパクが異なるため 効果がない

■ 抗インフルエンザ薬の使い分け(概要)

薬剤系統作用する型特徴注意点
NA阻害薬A/B拡散阻害、実績豊富早期投与が必要
バロキサビルA/B1回投与、増殖初期を抑える耐性(I38T)が出やすい
M2阻害薬Aのみ脱殻阻害現在は耐性で使用困難

■ まとめ

  • NA阻害薬はウイルス放出を抑え、現在も標準的治療
  • バロキサビルはエンドヌクレアーゼ阻害により増殖を抑える新しい作用点
  • M2阻害薬は耐性蔓延により現実的には使用されない
  • いずれの薬も 早期投与が効果の鍵
  • 耐性は主にウイルスの表面タンパク(NA)やポリメラーゼ複合体(PA)の点変異によって生じる

第6回:季節性インフルエンザとパンデミックの生物学

■ 季節性インフルエンザとは

季節性インフルエンザは、冬季を中心に毎年流行を繰り返す感染症です。主に以下の特徴があります。

  • 抗原ドリフトによる小規模変異が免疫回避を引き起こす
  • A型(H1N1, H3N2)とB型の2種類が主に流行
  • 過去の感染・ワクチンによる免疫が部分的に残っているため、症状・致死率は比較的安定
  • 流行規模は地域ごとにほぼ毎年発生

● 季節性流行の成立要因

  1. 免疫の減衰(感染や接種から時間が経つと抗体が低下)
  2. 抗原ドリフトによる抗体逃避
  3. 冬季の環境要因(乾燥、低温でウイルスが安定化)
  4. 人の行動パターン(室内活動の増加)

■ パンデミックインフルエンザとは

パンデミックとは、世界的規模で短期間に感染が爆発的に拡大する現象です。

インフルエンザでパンデミックが起こる主因は、
抗原シフトによって新しい亜型が誕生し、人類が免疫を全く持たない状態で広がることです。

● パンデミックの特徴

  • 新しいHAまたはNAを持つ新亜型
  • 世界中で免疫がほぼゼロ → 感染が急速に拡大
  • 年齢分布が大きく変わる(若年者への重症化など)
  • 流行が1〜3年続く
  • 過去の例では致死率が大きく変動(1918年は非常に高い)

● 主なパンデミック

  • 1918年:H1N1(スペインかぜ)
  • 1957年:H2N2(アジアかぜ)
  • 1968年:H3N2(香港かぜ)
  • 2009年:H1N1(新型インフルエンザ)

これらはすべて抗原シフトによる新亜型が原因です。


■ 両者の生物学的違い

1. 抗原変異の規模

種類季節性パンデミック
主因小さな変異(抗原ドリフト)大変異(抗原シフト)
免疫の有無部分的にありほぼゼロ
致死率・重症度安定している変動が大きい

2. 宿主範囲の違い

  • パンデミックウイルスでは鳥・豚など動物由来ウイルスとの遺伝子再集合が重要
  • 人に適応するため、HAの受容体認識やPB2の宿主適応変異(E627Kなど)が獲得されることが多い

3. 感染の持続と世代交代

パンデミックウイルスは数年で季節性ウイルスへと“定着”します。
(例:2009年H1N1は現在の季節性H1N1になっている)


■ 季節性インフルエンザとパンデミックを区別する意味

  • ワクチン更新戦略の違い
  • 公衆衛生対応(渡航制限・休校措置など)の判断
  • サーベイランス体制の強化
  • ウイルス進化の監視(特に動物由来ウイルス)

パンデミックの初期には「感染力」「重症度」「宿主適応」の評価が急務となります。


■ まとめ

  • 季節性インフルエンザは抗原ドリフトによって毎年流行
  • パンデミックインフルエンザは抗原シフトで新亜型が誕生して起こる
  • 人類の既存免疫の有無が、流行の規模と重症度を大きく左右する
  • パンデミック株は最終的に季節性株として定着し、以後はドリフトで変化を続ける

第5回:インフルエンザの抗原変異(抗原シフト・抗原ドリフト)

■ 抗原変異とは何か

インフルエンザウイルス(特にA型)は、表面抗原である

  • HA(ヘマグルチニン)
  • NA(ノイラミニダーゼ)
    の構造が変化しやすい性質を持っています。

この抗原変化のため、私たちの免疫が過去の感染やワクチンで獲得した抗体ではウイルスをうまく中和できなくなり、毎年流行が繰り返される根本的な理由になっています。

抗原変異には以下の2種類があります:

  1. 抗原ドリフト(Antigenic Drift)
  2. 抗原シフト(Antigenic Shift)

両者は原因・頻度・影響が大きく異なります。


■ 1. 抗原ドリフト:季節性インフルエンザの主因

● 仕組み

抗原ドリフトは、RNA複製エラーによる少しずつの変異の蓄積で起こります。
インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼには校正機能がないため、複製時の誤りがそのまま残りやすく、HAやNAのアミノ酸配列の一部が置き換わります。

● 特徴

  • 小さな変異が少しずつ蓄積
  • 毎年または数年単位で起こる
  • 既存の免疫を部分的に回避
  • 季節性インフルエンザの原因

● 公衆衛生への影響

ワクチン株は毎年更新される必要があります。
これは、抗原ドリフトでウイルスが少しずつ免疫から逃げるためです。


■ 2. 抗原シフト:パンデミックを引き起こす大変異

● 仕組み

抗原シフトは、異なるインフルエンザA型ウイルス同士が1つの細胞に感染し、遺伝子が再集合(リオソーティング)することで、新しいHAまたはNAを持つウイルスが誕生する現象です。

例:

  • 鳥インフルエンザウイルス
  • 豚インフルエンザウイルス
  • 人インフルエンザウイルス
    が混合感染 → 新しい亜型のインフルエンザAウイルスが生まれる

● 特徴

  • 大規模で“飛び級”的な”抗原の変化
  • 人類が免疫を持たない新亜型が誕生
  • 発生頻度は非常に低い
  • 主にインフルエンザA型でのみ起こる(B型ではほぼ起こらない)

● 歴史的パンデミック例

  • 1918年 H1N1(スペインかぜ)
  • 1957年 H2N2(アジアかぜ)
  • 1968年 H3N2(香港かぜ)
  • 2009年 H1N1(新型インフルエンザ)

これらはいずれも抗原シフトにより誕生したウイルスが原因です。


■ 抗原ドリフトと抗原シフトの比較

特性抗原ドリフト抗原シフト
原因RNA複製エラーの蓄積異種ウイルスの遺伝子再集合
変化の規模小さい大規模(新亜型誕生)
発生頻度毎年〜数年数十年に一度
対象A、B型で起こるA型のみ
影響季節性流行パンデミック

■ まとめ:なぜインフルエンザは毎年問題になるのか

  • ウイルスのRNA複製はエラーが多く、抗原ドリフトで毎年少しずつ変異
  • 動物由来ウイルスとの遺伝子再集合により、抗原シフトで新亜型が誕生
  • これらの抗原変異が、人間の免疫から逃れ続ける理由
  • その結果、ワクチンも毎年更新する必要がある

インフルエンザの感染制御には、「抗原変異の性質」を理解することが非常に重要になります。

第4回:インフルエンザ感染に対する宿主免疫応答と病態(自然免疫・炎症・重症化メカニズム)

1. インフルエンザ感染後、体の中で何が起きるのか?

インフルエンザウイルスは、主に 呼吸上皮細胞 に感染します。
感染細胞がウイルスを感知すると炎症反応が始まり、これが発熱・頭痛・筋肉痛などの典型症状を引き起こします。

大まかな流れは以下の通り:

  1. ウイルスRNAの感知(自然免疫)
  2. サイトカイン産生(IFN、TNF、IL-6 など)
  3. 炎症細胞の動員(マクロファージ、好中球)
  4. 感染細胞の破壊
  5. 回復と組織修復

これらがうまく働けば症状は軽く、
過剰に働きすぎると 重症肺炎やサイトカインストーム につながります。


2. 自然免疫(先天免疫)が「インフルエンザを最初に発見する」

ウイルスRNAは、細胞内のセンサーによって素早く検知されます。

2-1. センサー(ウイルス感知装置)

● RIG-I(主要センサー)

  • インフルエンザの 5’三リン酸RNA(vRNA) を認識
  • 最も重要な自然免疫トリガー

● TLR7(エンドソーム内でds/ssRNAを認識)

  • プラスマサイトイド樹状細胞などで活性化
  • 強力なIFN(インターフェロン)産生を誘導

● NLRP3インフラマソーム

  • 細胞ストレスに反応して IL-1β・IL-18 を産生
  • 発熱や炎症を促進

3. インターフェロン(IFN)応答:抗ウイルス状態の確立

ウイルスを感知した細胞は IFN-α/β(I型インターフェロン) を放出します。

3-1. IFNの役割

隣接細胞に
「ウイルスが来ている、警戒せよ」
というシグナルを送る。

その結果:

  • ウイルス複製を阻害
  • RNA分解酵素(OAS/RNase L)の誘導
  • PKRによるタンパク質合成停止
  • MHC class I増加 → 細胞傷害性T細胞による排除促進

これにより、広範囲の細胞が「抗ウイルス状態」へと変化します。


4. 炎症反応(サイトカインによる症状の発生)

感染細胞・免疫細胞が分泌するサイトカインが、インフルエンザの症状を生みます。

● IL-6:発熱、倦怠感

● TNF-α:食欲低下、全身症状

● IL-1β:発熱、痛み

● ケモカイン(CXCL10など):炎症細胞の動員

● IFN:筋肉痛、寒気

これらは ウイルス自身の直接的な毒性ではなく、宿主の免疫反応 によって生じます。


5. 感染細胞の排除(マクロファージ・NK細胞・T細胞)

免疫システムは感染細胞を的確に排除します。

5-1. マクロファージ

  • 感染細胞の死骸処理
  • サイトカイン産生
  • 抗原提示

5-2. NK細胞

  • IFNで活性化される
  • MHC class I が低下した感染細胞を攻撃

5-3. 細胞傷害性T細胞(CD8⁺ T細胞)

  • ウイルス抗原を提示した細胞を特異的に破壊
  • 肺内での主要なウイルス排除機構

これらによってウイルス量が減少し、症状も収束に向かいます。


6. 重症化メカニズム:サイトカインストームと肺障害

インフルエンザの重症化は、ウイルスが多いだけでは起こりません。
免疫反応が暴走すること が原因となります。


6-1. サイトカインストーム

炎症サイトカインが制御不能に増加する状態で、特に:

  • IL-6
  • TNF-α
  • IFN-β
  • IL-1β

などが過剰産生される。

結果

  • 血管透過性が上昇
  • 浸出液が肺にたまる
  • ARDS(急性呼吸窮迫症候群)に進展
  • 臓器障害が発生

6-2. 免疫細胞の過剰浸潤

好中球やマクロファージが大量に肺へ移動すると、
自分の組織まで傷つけてしまい、肺炎が悪化します。


6-3. 既往症によるリスク増大

  • 高齢者
  • 喘息・COPD
  • 心不全
  • 妊婦
  • 糖尿病
  • 免疫抑制状態

では重症化しやすい理由として、
免疫反応の調整が難しくなる点が挙げられます。


7. 回復と組織修復

ウイルスが減少すると、炎症反応は抑えられ、
線維芽細胞や上皮幹細胞が働いて肺の組織修復が進みます。

軽症例では1〜2週間で回復しますが、
重症肺炎の場合は完全な回復まで数週間以上かかることもあります。


まとめ

インフルエンザの症状や重症化は、

  • 免疫応答の強さ・バランス
  • サイトカインの量
  • 炎症細胞の動員

によって決まります。

ウイルスの増殖そのものより、
宿主の免疫反応の“過剰さ”が病態を左右する
というのがポイントです。

第3回:インフルエンザ感染成立の分子メカニズム(受容体結合・細胞侵入・宿主適応)

1. 感染成立の根幹:受容体特異性(HAとシアル酸結合)

インフルエンザウイルスの感染は、HA(ヘマグルチニン)とシアル酸の結合から始まります。
この“結合の相性”が、どの動物に感染できるか、どれだけ広がるかを大きく左右します。


1-1. シアル酸の2種類:α2,3 と α2,6

ヒト型ウイルス(H1N1・H3N2)

  • α2,6結合シアル酸を認識
  • 上気道(鼻〜咽頭)に多く存在
  • ヒトへの伝播効率が高い(咳・くしゃみで飛びやすい)

鳥型ウイルス(H5N1など)

  • α2,3結合シアル酸を認識
  • 鳥の腸管に多い
  • ヒトには主に 肺の深部にしか存在しない
  • → 人感染は起こるが「伝播」はほとんどしない

この受容体特異性の違いが、季節性インフルエンザ鳥インフルエンザを分ける決定的なポイントです。


1-2. 受容体特異性を決めるHAのアミノ酸残基

  • H1:190番台・220番台のループ構造
  • H3:異なる領域で決定される

わずかなアミノ酸変化で 鳥型 → ヒト型 に切り替わることがあり、パンデミックのリスクを常に孕んでいます。


2. 細胞侵入(エンドサイトーシスと膜融合)の分子機構

受容体に結合した後、ウイルスは細胞内へ取り込まれ、エンドソームの酸性化により膜融合を起こします。


2-1. HAのpH依存的構造変化

エンドソームの酸性環境により、HAは劇的な構造変化を起こし、
ウイルス膜とエンドソーム膜を融合させます。

この反応が起きる理由

  • HAは「低pHで開くように設計されたバネ」のような構造を持つ
  • 開くことで、細胞膜へ伸びる「融合ペプチド」が露出する

この融合ステップは治療標的としても注目されています。


2-2. M2イオンチャネルによる脱殻調整

M2はH⁺をウイルス内部へ流し込み、内部のpHを変化させることで
M1(コート)とRNPの結合を弱め、RNPを解放する役割を果たします。

  • アマンタジンはこのM2を阻害する薬
  • しかし現在は耐性株が多く、臨床使用は限定的

2-3. RNPを核へ届ける輸送システム

解放されたRNPは、**核移行シグナル(NLS)**を使って核へ移動します。
これにより、核内での「キャップスナッチング」や複製が可能になります。


3. 宿主適応の分子メカニズム(なぜ鳥ウイルスは人に広がらないのか?)

インフルエンザウイルスが別の種に感染し、さらにその種で広がるには「宿主適応」が必要です。
その中核になるのがポリメラーゼ複合体の適応です。


3-1. PB2の627位が伝播性を左右する

PB2のアミノ酸 627番(E627K変異) は宿主適応で最も有名な例です。

  • 鳥型:E(グルタミン酸)
    ヒトの細胞では増殖しにくい
  • ヒト型:K(リジン)
    → ヒト上気道の温度(33°C付近)でよく複製できる

鳥インフルエンザのヒト感染例で、PB2-627Kが獲得されると、重症化や伝播の潜在能力が高まるとされます。


3-2. PB2の701位(Q701N)など他の適応変異

  • PB2-Q701N
  • PB1、NPの適応変異
  • RNP複合体が人の核内で機能しやすくする改変

これらが組み合わさることで、ウイルスは新しい宿主に馴染んでいきます。


3-3. HAのプロテアーゼ依存性

HAは宿主プロテアーゼで切断(活性化)されないと感染力を持ちません。

  • 鳥型HA:特定のプロテアーゼにしか切断されない
  • 一部高病原性株(H5)は多塩基性切断部位を獲得し、
    広範な組織で切断される → 全身感染を起こす

これも病原性の分子基盤です。


4. なぜ人にうつるウイルスとうつらないウイルスがあるのか?

種間の壁を決める重要因子は以下の通り:

  1. 受容体特異性(HA)
  2. ポリメラーゼの適応(PB2)
  3. HA切断プロテアーゼの利用性
  4. ウイルス粒子の安定性(気道環境への適応)

1つでも適していないと、

  • 人に感染しにくい
  • 感染しても増殖できない
  • 増殖しても伝播できない
    という制限が生じます。

まとめ

インフルエンザウイルスの感染は、

  • HAとシアル酸の相互作用
  • 低pH依存的な膜融合
  • RNPの核輸送
  • PB2を中心とした宿主適応

といった分子機構によって成立します。

次回は、感染後にどのように身体が反応するのか──
「宿主免疫応答と病態」 について解説します。