研究

【初心者向け】代表的なシングルセルRNA-seq法の比較:10x Genomics・Smart-seq・Drop-seq

はじめに:なぜscRNA-seqには複数の手法があるのか?

シングルセルRNA-seqは、1細胞ごとの遺伝子発現プロファイルを解析するための強力な技術です。
しかしその目的(例:大量の細胞をざっくり見る vs 少数細胞を高精度で解析)や、使用する機器、予算によって最適な手法が異なります。
そのため、現在では複数のscRNA-seq法が存在しています。

本記事では代表的な以下3手法を比較します:

  • 10x Genomics Chromium(ドロップレット法)
  • Smart-seq2(プレート法)
  • Drop-seq(ドロップレット法)

比較表:scRNA-seq主要法の特徴一覧

特徴10x Genomics ChromiumSmart-seq2Drop-seq
原理ドロップレット内でバーコード付与各細胞をプレートで個別処理ドロップレット内でバーコード付与
必要機材専用マイクロフルイディクス装置ピペット操作とPCR機材のみ自作ドロップレット生成装置
対象細胞数数千~数十万細胞数十~数百細胞数千~万細胞
感度中~高(UMIで定量性◎)非常に高い(全長mRNA)低~中
検出範囲mRNAの3’末端中心全長mRNAmRNAの3’末端中心
コスト高(1サンプル数十万円)やや高(1細胞あたり高)低コストだが開発要素多
定量精度高(UMIあり)非常に高(全長+高感度)
アプリケーション例細胞集団の網羅的解析少数の稀少細胞の詳細解析自作装置による大規模スクリーニング

それぞれの技術の解説

1. 10x Genomics Chromium:業界標準のハイパフォーマンス技術

  • 仕組み:1細胞とバーコード付きビーズを油滴(ドロップレット)内で一緒に閉じ込め、cDNAを合成。
  • 特徴
    • 一度に数万細胞を処理可能
    • 高スループットで操作も簡便(専用機器が必要)
    • 3’ or 5’ 末端を検出するライブラリ構築が可能
    • クローズドシステムだが再現性・精度は非常に高い
  • おすすめ:網羅的な細胞タイプの分類・クラスタリング解析

2. Smart-seq2:全長トランスクリプトを高精度で取得

  • 仕組み:1細胞を96 or 384ウェルプレートに分注し、mRNAを逆転写・PCR増幅。全長cDNAを得る。
  • 特徴
    • 非常に高感度・高精度(全長mRNA検出可能)
    • SNP解析やアイソフォーム解析にも対応
    • 自由度が高く、特殊な遺伝子を狙いやすい
  • 欠点:UMIがないため定量性はやや劣る
  • おすすめ:希少細胞(幹細胞など)の詳細発現解析、遺伝子構造の変化解析

3. Drop-seq:コスパ重視のオープンソース技術

  • 仕組み:1細胞とバーコード付きビーズを油滴内で閉じ込める。10xと似ているがオープンなシステム。
  • 特徴
    • 低コストで大量細胞の解析が可能
    • 自作装置が必要だが、自由度が高い
    • 3’末端しか検出できないため一部の解析には不向き
  • おすすめ:大規模スクリーニングや自作システムでの低予算研究

まとめ:どのscRNA-seq法を使うべき?

目的推奨手法
網羅的に数万細胞を解析したい10x Genomics
少数の細胞を高感度で解析したいSmart-seq2
低予算で大規模スクリーニングしたいDrop-seq

【初心者向け】RT-qPCRとは?RNAの定量をリアルタイムで行う方法をやさしく解説!

はじめに:RT-qPCRって何?

RT-qPCR(アールティー・キューピーシーアール)とは、

「RNAをDNAに変換し、それをリアルタイムで定量するPCR」

のことです。
正式には「Reverse Transcription quantitative PCR(逆転写定量PCR)」と呼ばれ、RNAの量を正確に測るために使われています。


どういうときにRT-qPCRを使うの?

  • ウイルスRNA(例:新型コロナウイルス)を検出
  • 細胞の**遺伝子発現量(mRNA)**を調べる
  • 遺伝子治療や創薬の効果検証など、医療・バイオ研究の必須技術

RNAはそのままではPCRできないため、まずDNA(cDNA)に変換してからPCRを行うのがポイントです。


RT-qPCRの基本ステップ

RT-qPCRは、以下の2段階の反応で行われます:

① 逆転写(RT:Reverse Transcription)

RNAからDNA(cDNA)を作るステップ
→ 酵素「逆転写酵素(リバーストランスクリプターゼ)」を使用

② qPCR(リアルタイムPCR)

cDNAを蛍光を使ってリアルタイムに増幅・定量するステップ
→ 蛍光色素(SYBR Green)やプローブ(TaqMan)を使用


RNA → cDNA → DNAをリアルタイムで測定!

RNA(例:mRNA)
 ↓ 逆転写(RT)
cDNA(一本鎖のDNA)
 ↓ qPCR
定量(Ct値で評価)

RNAの量が多いほど、できるcDNAも多くなり、qPCRでのCt値は小さくなります


Ct値(Cycle threshold)とは?

qPCRと同様に、RT-qPCRでもCt値が重要です。これは、

「蛍光が検出され始めるサイクル数」

のことで、Ct値が小さいほど、もともとのRNA量が多かったことを意味します。


RT-qPCRでよく使う試薬と装置

  • 逆転写酵素(例:SuperScript, ReverTra Aceなど)
  • SYBR Green:DNAに結合して蛍光を発する色素
  • TaqManプローブ:特異的なDNAにだけ反応する蛍光プローブ
  • サーマルサイクラー(リアルタイムPCR装置)

RT-qPCRの用途まとめ

✅ 感染症検査(ウイルスRNAの検出)
✅ 遺伝子発現解析(mRNAの比較)
✅ miRNA解析、lncRNA解析など
✅ 治療効果・薬剤反応のモニタリング


RT-qPCRとqPCR、通常のPCRの違い

項目通常のPCRqPCRRT-qPCR
測定対象DNADNARNA(→ cDNA)
測定定性(ある/なし)定量(量)定量(RNA量)
特徴DNAを増やすDNAの量を測るRNAをDNAに変えて測る

まとめ:RT-qPCRはRNAの“量”を測る技術!

🔹 RT-qPCRはRNA(特にmRNA)をリアルタイムで定量する方法
🔹 逆転写 → qPCRの2段階で行う
🔹 Ct値でRNA量の差を比較できる
🔹 感染症、がん研究、遺伝子発現解析に欠かせない


よくある質問(FAQ)

Q. RNAはそのままPCRできますか?
→ できません。必ずcDNAに変換(逆転写)してからPCRします。

Q. RNAの定量は何に使えるの?
→ 遺伝子の「発現量」がわかるため、病気の診断や治療効果の確認に使われます。

Q. qPCRとRT-qPCRの違いは?
→ 測定対象が違います。qPCRはDNA、RT-qPCRはRNA(をcDNAにして)を測ります。

『Molecular Biology of the Cell』(第7版)全24章解説

タイトル(日本語訳)内容概要
1Cells and Genomes(細胞とゲノム)全ての生命体に共通する細胞の基本構造とゲノムの進化的背景。
2Cell Chemistry and Bioenergetics(細胞の化学と生体エネルギー学)化学結合、水と分子、代謝とエネルギーの基本。
3Proteins(タンパク質)タンパク質の構造、フォールディング、機能、ドメイン。
4DNA, Chromosomes, and Genomes(DNA、染色体、ゲノム)真核生物の染色体構造とゲノムの構成。
5DNA Replication, Repair, and Recombination(DNAの複製、修復、組換え)高精度なDNA維持の機構。
6How Cells Read the Genome: From DNA to Protein(DNAからタンパク質への読み取り)転写、RNAプロセシング、翻訳の概要。
7Control of Gene Expression(遺伝子発現の制御)転写因子、エピジェネティクス、遺伝子調節回路。
8Analyzing Cells, Molecules, and Systems(細胞・分子・システムの解析法)光学・電子顕微鏡、オミクス解析、ライブセル観察。
9Visualizing Cells(細胞を「見る」技術)蛍光標識、免疫染色、共焦点・2光子顕微鏡。
10Membrane Structure(膜構造)脂質二重層、膜流動性、膜タンパク質の配置。
11Membrane Transport of Small Molecules and the Electrical Properties of Membranes(膜輸送と膜電位)担体、チャネル、膜電位とその制御。
12Intracellular Compartments and Protein Sorting(細胞内小器官とタンパク質のソーティング)ER、ゴルジ体、核、ミトコンドリアへのタンパク輸送。
13Intracellular Membrane Traffic(細胞内膜トラフィック)小胞輸送、エンドサイトーシス、エクソサイトーシス。
14Energy Conversion: Mitochondria and Chloroplasts(エネルギー変換:ミトコンドリアと葉緑体)呼吸鎖、ATP合成、光合成の概要。
15Cell Signaling(細胞シグナル伝達)受容体、Gタンパク、酵素型受容体、MAPK経路など。
16The Cytoskeleton(細胞骨格)アクチン、微小管、中間径フィラメントとその動的制御。
17The Cell Cycle(細胞周期)G1, S, G2, M、チェックポイントとCDK制御。
18Cell Death(細胞死)アポトーシス、ネクローシス、細胞死シグナル。
19Cell Junctions and the Extracellular Matrix(細胞接着と細胞外マトリクス)カドヘリン、インテグリン、ECMの構成と機能。
20Cancer(がん)発がん機構、変異、がん遺伝子と抑制遺伝子、治療標的。
21Development of Multicellular Organisms(多細胞生物の発生)形態形成、分化、組織の空間構築。
22Specialized Tissues, Stem Cells, and Tissue Renewal(幹細胞と組織再生)幹細胞ニッチ、恒常性、再生医療の基礎。
23Pathogens and Infection(病原体と感染)ウイルス、細菌、寄生虫と宿主細胞との関係。
24The Adaptive Immune System(適応免疫系)B細胞・T細胞、抗体、免疫記憶と抗原提示。

今後これらについて1章ずつ簡単にまとめた解説を投稿していきます。

シングルセルRNA-seqとは?──1細胞レベルで遺伝子発現を読み解く最先端技術

シングルセルRNA-seqとは?

シングルセルRNAシーケンス(single-cell RNA sequencing / scRNA-seq)は、個々の細胞におけるmRNA(メッセンジャーRNA)発現を網羅的に解析する次世代シーケンス技術です。

従来のRNA-seqでは、組織全体や細胞群から抽出したRNAをまとめて解析するため、細胞間の違いは“平均化”されてしまいます。対してscRNA-seqは、1細胞単位でRNA発現を可視化できるため、同じ組織内でも異なる遺伝子プロファイルを持つ細胞の存在を明らかにできます。


シングルセルRNA-seqの特徴

  • 🔬 個々の細胞の遺伝子発現を明らかに
  • 🧠 細胞の多様性や分化状態を把握可能
  • 🧬 細胞系譜(クローン)や発生過程を解析できる
  • 🧪 がんや免疫系、神経系などの研究で革命的ツール

scRNA-seqの基本的な流れ

1. 単一細胞の分離

細胞を1つずつ分離する必要があります。方法には以下があります:

  • FACS(蛍光活性細胞分取)
  • マイクロ流体チップ(10x Genomicsなど)
  • マイクロマニピュレーター

2. 細胞ごとのmRNA抽出・逆転写

各細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素(RT)でcDNA(相補DNA)へ変換します。

このとき、細胞ごとのバーコードや**UMI(Unique Molecular Identifier)**を付加することで、後からどのcDNAがどの細胞・どのmRNA由来かを識別できるようにします。

3. cDNAの増幅とライブラリ調製

得られたcDNAをPCRで増幅し、次世代シーケンサー(NGS)に適したライブラリを調製します。

4. シーケンス(配列決定)

IlluminaなどのNGSを用いて、バーコード付きcDNAをシーケンスします。

5. データ解析

  • 各リードから細胞バーコードとUMIを認識
  • マッピング(リファレンスゲノムへの位置合わせ)
  • UMIによる重複排除遺伝子ごとのカウント
  • 発現マトリックス作成
  • クラスタリング・次元圧縮(tSNE, UMAP)
  • 細胞型推定や軌跡解析(trajectory analysis)

バルクRNA-seqとの違い

特徴バルクRNA-seqシングルセルRNA-seq
対象細胞集団単一細胞
感度平均化される細胞ごとの差異が見える
データ量少なめ非常に多い
難易度比較的簡単技術的に高度

scRNA-seqが切り開く未来

  • がん研究:がん幹細胞や薬剤耐性クローンの同定
  • 再生医療:分化・発生の軌跡の解析
  • 免疫学:免疫細胞の多様性と状態の把握
  • 脳科学:神経細胞の分類やネットワーク理解

おわりに

シングルセルRNA-seqは、**「細胞レベルで生命を理解する」**ための強力なツールです。高感度・高解像度での遺伝子発現解析が可能になったことで、従来の見方を一変させる研究成果が次々と生まれています。

この技術を正しく理解し、目的に応じた設計や解析を行うことで、より深い生命現象の理解が進むでしょう。

次世代シーケンスにおける「ライブラリ」と「アダプター」とは?——初心者にもわかる仕組みと役割

はじめに

次世代シーケンサー(NGS)による解析は、がん研究から微生物叢の解析まで幅広く活用されています。その中で欠かせない工程が「ライブラリ調製」と「アダプター配列の付加」です。

「ライブラリって何?」「アダプターってなぜ必要なの?」
そう思ったことがある方へ向けて、本記事ではライブラリとアダプターの基本構造、役割、使用される技術まで、図解つきで丁寧に解説します。


ライブラリとは?

● ライブラリ=「シーケンスにかけるためのDNA断片のセット」

NGSでは、解析対象となるDNAやRNAを短い断片に切断し、アダプターを付加した状態で次世代シーケンサーにかけます。このアダプター付き断片の集合体が「ライブラリ」と呼ばれます。

● ライブラリを作る目的

  • DNA断片化:解析対象の遺伝子やトランスクリプトを短く切断(例:200–500 bp)
  • アダプター付加:PCR増幅やシーケンサーへの読み込みのために必要
  • 均一な増幅・配列決定:断片の長さや構造を揃えることで、安定したシーケンスが可能になる

アダプターとは?

● アダプターは“タグ”や“取っ手”のようなもの

アダプターは人工的に合成された短いDNA配列で、ライブラリの両端に付加されます。

● アダプターの主な役割

役割説明
プライマー結合部位PCR増幅のためのプライマーがここに結合します
フローセルへの結合シーケンサー(例:Illumina)のフローセルにDNAを固定するため
バーコード(オプション)複数サンプルを同時に解析するための識別コード(インデックス)
シーケンス開始点リーディング開始のための“導入部”の役割も果たす

● 代表的なアダプターの例(Illumina)

  • P5 / P7領域:フローセルへの結合部
  • Read 1 / Read 2 プライマー結合部位:リードの配列読み取り開始点
  • Index(インデックス):サンプル識別用バーコード

ライブラリ調製の流れ(例:RNA-seq)

  1. RNA抽出
     ↓
  2. mRNA選別(poly-A精製 or rRNA除去)
     ↓
  3. 断片化・逆転写(RNA→cDNA)
     ↓
  4. アダプター付加(ライゲーション or tagmentation)
     ↓
  5. PCR増幅
     ↓
  6. ライブラリ完成・品質確認(バイオアナライザーなど)
     ↓
  7. シーケンサーへ投入

Tagmentationとは?(補足)

最近のNGSキットでは、トランスポザー酵素を使って一度に断片化+アダプター付加を行う「Tagmentation」という方法が使われることもあります。
→ より高速・簡便にライブラリを作製できる技術です。


まとめ

  • ライブラリとは「解析対象のDNA/RNA断片にアダプターを付加した集合体」
  • アダプターは、PCR・シーケンサー固定・バーコード化など、解析の鍵を握る配列
  • NGSでは、ライブラリとアダプターの設計が解析精度を大きく左右する

初心者がNGSを理解する上で、この「ライブラリとアダプター」の概念は絶対に外せません。正しく理解することで、RNA-seqやWGSの実験設計もより深く考察できるようになります。

次世代シーケンサー(NGS)におけるシーケンス・マッピング・定量解析の流れを徹底解説

はじめに

次世代シーケンサー(Next Generation Sequencing:NGS)は、ゲノムやトランスクリプトームの網羅的な解析を可能にした革新的な技術です。特にRNA-seqやDNA-seqでは、「シーケンス」「マッピング」「定量解析」の3ステップが基本的な解析フローとなります。

この記事では、それぞれのステップについて、バイオインフォマティクス初心者でも理解できるように、丁寧に解説します。


ステップ①:シーケンス(Sequencing)

目的:

DNAやRNA由来の断片を読み取り、**塩基配列(リード)**として取得する。

概要:

NGSでは、まずライブラリ化されたDNA断片(アダプターが付いた状態)をシーケンサーで読み取ります。代表的なプラットフォームとしてIllumina(短鎖リード)やOxford Nanopore(長鎖リード)があります。

流れ:

  1. ライブラリ調製:断片化 → アダプター付加 → 増幅
  2. クラスター生成(Illumina):フローセル上で同一DNA断片が増幅される
  3. シーケンシング
    • Illumina:リバーシブルターミネータ法
    • Nanopore:ナノポアを通過する電流変化で塩基を読み取る
  4. FASTQファイル出力:リード配列とクオリティ情報が含まれる

ステップ②:マッピング(Mapping)

目的:

得られたリードを、**既知のリファレンスゲノムやトランスクリプトームに位置づける(アラインメント)**こと。

使用ツール:

  • DNA-seq:BWA, Bowtie2
  • RNA-seq:STAR, HISAT2 など(スプライスサイトの処理も対応)

ポイント:

  • リード品質の確認(FastQCなど)
  • トリミング(低品質な塩基やアダプター除去)
  • マルチマッピング:同じリードが複数の場所に当たる場合の処理
  • 出力形式:SAM/BAMファイルとして保存

補足:

RNA-seqでは、スプライシングを考慮したアラインメントが重要です。例えば、STARはイントロンをスキップしてエクソンをつなぐリードにも対応できます。


ステップ③:定量解析(Quantification)

目的:

遺伝子やトランスクリプトの発現量を定量化する。

方法:

  • カウントベース法
    • featureCounts(遺伝子ごとのリード数をカウント)
    • HTSeq-count
  • 確率モデルベース
    • RSEM, Salmon, Kallisto(高速でトランスクリプトレベルの定量が可能)

正規化の重要性:

  • TPM(Transcripts Per Million)
  • FPKM(Fragments Per Kilobase of transcript per Million reads mapped)
  • DESeq2やedgeRでは、生データからライブラリサイズ補正を加味

応用解析への発展

定量解析後は、差次的発現解析(DEG解析)、クラスタリング、経路解析、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)などに進むのが一般的です。


まとめ

ステップ内容主なツール出力
シーケンス塩基配列を読むIllumina, NanoporeFASTQ
マッピングリードをゲノムに配置STAR, HISAT2BAM
定量解析発現量の計算featureCounts, Salmonカウント行列(TSVなど)

NGS解析は一見複雑ですが、上記の3ステップを理解することで、解析の全体像がつかめます。今後、RNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seqなど、さまざまなオミクス解析にも応用可能です。

【初心者向け】バルクRNA-seqとは?遺伝子発現を網羅的に調べる次世代技術を解説!

はじめに:RNA-seqって何?

RNA-seq(RNAシーケンシング)」とは、細胞の中でどの遺伝子がどれだけ発現しているかを、網羅的に調べることができる次世代シーケンス(NGS)技術です。

その中でも「バルクRNA-seq(bulk RNA-seq)」は、複数の細胞のRNAをまとめて解析する方法で、最も一般的かつコストパフォーマンスの良い解析手法です。


バルクRNA-seqとは?

バルクRNA-seqとは、

組織や細胞集団から抽出したRNAを一括で解析して、全体の遺伝子発現量を調べる方法

です。1細胞ごとではなく、**「集団の平均的な発現情報」**が得られます。


何がわかるの?バルクRNA-seqの目的

✅ どの遺伝子が発現しているか(有無)
✅ どのくらいの量で発現しているか(発現量)
✅ 病気や処理の有無での発現変化(DEG:差次的発現遺伝子)

例:正常 vs がん細胞で、がん特異的に高発現している遺伝子を同定できる


バルクRNA-seqの基本ステップ

  1. RNA抽出
     細胞や組織からトータルRNAを取り出します。
  2. mRNAの濃縮(またはrRNA除去)
     → poly(A)選択やrRNA除去キットを使用して、解析対象のRNAに絞ります。
  3. cDNA合成
     → RNAをDNA(cDNA)に逆転写します。
  4. ライブラリ調製
     → シーケンスに適した断片化・アダプター付加を行います。
  5. 次世代シーケンサー(NGS)で解析
     → Illuminaなどの装置で数百万〜数千万リードを読み取ります。
  6. データ解析(バイオインフォマティクス)
     → マッピング、カウント、正規化、差次的発現解析(DESeq2, edgeRなど)

バルクRNA-seqのメリットとデメリット

✅ メリット

  • 比較的安価・簡便
  • 細胞集団全体の発現傾向がつかめる
  • 組織レベルや動物モデルでも使いやすい

⚠ デメリット

  • 細胞ごとの違いはわからない(平均化される)
  • 少数派の細胞の情報は埋もれてしまう可能性がある

シングルセルRNA-seqとの違いは?

項目バルクRNA-seqシングルセルRNA-seq
対象細胞集団全体一細胞ごと
解像度低い(平均)高い(細胞ごと)
コスト安い高い
難易度低〜中高(専門機器・解析スキル)

どんな研究で使われている?

  • ✅ がん研究(正常 vs 腫瘍の遺伝子発現比較)
  • ✅ 創薬・薬剤応答の評価
  • ✅ 発生・分化の過程の発現変化の把握
  • ✅ 疾患バイオマーカー探索

バルクRNA-seqの解析でよく使うツール

  • FastQC:リードの品質チェック
  • STAR, HISAT2:リードのマッピング
  • featureCounts, HTSeq:遺伝子ごとのカウント
  • DESeq2, edgeR:差次的発現解析
  • Enrichr, GSEA:経路・機能解析

まとめ:バルクRNA-seqは発現変化を見る強力なツール!

🔹 バルクRNA-seqは、細胞集団全体のRNA発現を網羅的に測定する技術
🔹 遺伝子のON/OFFや発現量の変化が数値でわかる
🔹 がんや感染症、分化など、あらゆる生物学的現象の解析に使われている
🔹 シングルセルと比べてコストが安く、汎用性が高い


よくある質問(FAQ)

Q. RNA-seqはRT-qPCRとどう違いますか?
→ RNA-seqは網羅的に全遺伝子の発現を一度に見る方法、RT-qPCRは特定の遺伝子のみを高精度に定量する方法です。

Q. なぜRNAをDNAに変えるのですか?
→ 次世代シーケンサーはRNAを直接読めないため、一度**cDNAに変換(逆転写)**してから解析します。

Q. 組織サンプルでも使えますか?
→ はい、可能です。ただし細胞の混在に注意が必要です。

【初心者向け】ウエスタンブロットとは?タンパク質を検出する基本技術をやさしく解説!

はじめに:ウエスタンブロットって何?

「ウエスタンブロット(Western blot)」は、特定のタンパク質を検出・確認する実験法です。

生物学や医学の研究では、遺伝子(DNA・RNA)だけでなく、「本当にそのタンパク質が作られているか?」「どのくらいあるのか?」を調べることが重要です。

ウエスタンブロットは、まさに**“タンパク質レベル”での証明手段**として使われます。


ざっくり言うとどういう実験?

簡単に言えば、

「細胞や組織から取り出したタンパク質を、サイズで分けて、目的のタンパク質を抗体で検出する方法

です。


ウエスタンブロットの目的と特徴

目的のタンパク質があるかを調べる
そのタンパク質がどれくらい発現しているか測る
サイズ(分子量)や修飾(リン酸化など)の違いも検出可能

RNAレベルで発現していても、タンパク質が作られていないこともあります。ウエスタンブロットで**“最終産物”の確認**ができます。


ウエスタンブロットの流れ:5つのステップ

① タンパク質抽出

細胞や組織を破砕して、中のタンパク質を取り出します。

② SDS-PAGEで分離(電気泳動)

ポリアクリルアミドゲルを使って、分子量の違いでタンパク質を分けるステップ。
→ 小さいタンパク質ほど速く移動します。

③ 転写(ブロッティング)

ゲル上のタンパク質を膜(PVDFやニトロセルロース)に移す工程です。
→ この膜上で検出します。

④ 抗体で検出

目的のタンパク質に**特異的にくっつく抗体(一次抗体)**を使います。さらに、二次抗体(発光酵素付き)で増幅します。

⑤ 発光・可視化

発光試薬(ECL)で発光させて、バンドとして検出。フィルムやCCDカメラで撮影します。


イメージで理解するウエスタンブロット

[細胞] → タンパク質抽出
 ↓
電気泳動(SDS-PAGE)
 ↓
膜に転写(ブロッティング)
 ↓
抗体でターゲットを検出
 ↓
発光してバンド出現!

よくあるQ&A(FAQ)

Q. バンドの濃さは何を意味しますか?
→ 濃いバンドほど、そのタンパク質が多く存在することを示します(ただし定量には注意が必要)。

Q. 複数のバンドが出たらどう解釈すればいい?
→ 修飾(リン酸化、分解)やスプライスバリアントなどが考えられます。非特異的反応も疑いましょう。

Q. ハウスキーピングタンパク質(β-actin, GAPDHなど)はなぜ使う?
→ 総タンパク量のコントロール(正規化)に使います。


応用例・活用場面

  • ✅ 遺伝子導入後、タンパク質が発現しているか確認
  • ✅ タンパク質のリン酸化や分解の確認
  • ✅ がん細胞と正常細胞での発現比較
  • ✅ 創薬研究での効果確認

ウエスタンブロットの注意点

  • 抗体の特異性が最重要
  • サンプル量やローディングのバラつきに注意
  • バンドの位置(分子量)で判定

まとめ:ウエスタンブロットは“タンパク質検出の王道”

🔹 ウエスタンブロットは特定のタンパク質を検出する実験法
🔹 電気泳動 → ブロッティング → 抗体検出 → 発光
🔹 発現の有無、量、修飾を確認できる
🔹 分子生物学や医学研究に欠かせない基礎技術!

【初心者向け】リアルタイムPCR(qPCR)とは?違いと原理をやさしく解説!

はじめに:qPCRとは何か?

qPCR(キューピーシーアール)とは、**リアルタイムPCR(Real-Time PCR)**のことです。
通常のPCRが「DNAを増やす」技術なのに対して、qPCRはDNAを増やしながらリアルタイムで“どれだけ増えたか”を測定できるのが特徴です。

感染症検査やがん遺伝子の検出、遺伝子発現解析など、医療や研究の現場で大活躍しています。


通常のPCRとqPCRの違いは?

項目通常のPCRqPCR(リアルタイムPCR)
目的DNAを増やすDNAの量を定量する(数える)
測定タイミング最後に見る途中でリアルタイムに見る
結果目で見て判断(ゲル)グラフや数値で表示
応用DNA検出感染症のウイルス量、遺伝子発現量の比較

qPCRの基本原理:蛍光でDNAの増加をモニター!

qPCRでは、DNAが増える過程で蛍光を使って増えた量をリアルタイムに記録します。

使われる蛍光法の例:

① SYBR Green法

  • 二本鎖DNAに結合して蛍光を発する色素を使用
  • シンプルで安価だが、非特異的な増幅も検出してしまう可能性あり

② TaqManプローブ法(ハイブリダイゼーションプローブ法)

  • 特定のDNA配列にだけ結合する蛍光プローブを使う
  • より特異性が高く、信頼性が高い

qPCRのステップ:PCR + 蛍光検出

基本のステップは通常のPCRと同じく、

  1. 変性(DNAの二本鎖を分ける)
  2. アニーリング(プライマーが結合)
  3. 伸長(DNAポリメラーゼが新しい鎖を合成)

ただし、伸長と同時に蛍光が発生し、それをリアルタイムで記録する点が違います。


Ct値(しーてぃーち)とは?

qPCRの結果で重要なのが「Ct値(Cycle threshold)」。これは、

「蛍光が一定レベルに達したサイクル数」

のことで、Ct値が小さいほど、元のDNAが多かったという意味になります。


qPCRの応用例

  • 新型コロナウイルスの検査(PCR検査)
     → ウイルスRNAをRT-qPCRで検出し、Ct値で感染の強さも推定
  • がん診断
     → 異常な遺伝子発現の量を定量
  • 遺伝子発現解析(mRNA量の測定)
     → 正常 vs 病変などでどの遺伝子が発現しているかを比較

まとめ:qPCRは「DNAの増える量」を測れるPCR!

🔹 qPCR(リアルタイムPCR)はDNAをリアルタイムで定量できるPCR
🔹 蛍光を使って増えたDNAの量をモニター
🔹 Ct値が小さいほどDNA量が多い
🔹 医療、感染症、がん研究などで不可欠な技術


よくある質問(FAQ)

Q. qPCRは定量できますか?
→ はい、蛍光シグナルにより、元のDNAの量を数値として評価できます。

Q. RNAもqPCRできますか?
→ 可能です。まず逆転写(RT)でcDNAにしてから、RT-qPCRで測定します。


次回は「RT-qPCRとは?RNAの定量をリアルタイムで行う方法」を解説予定です!

【初心者向け】PCRの原理をわかりやすく解説!DNAを増やす魔法の技術とは?

はじめに:PCRって何?

PCR(ピーシーアール)とは、「ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)」の略で、DNAを大量にコピーする技術です。たった1本のDNAから、数時間で数百万〜数十億倍に増やせるため、医療や犯罪捜査、研究などさまざまな場面で使われています。

この記事では、PCRの基本的な原理を、理系初心者の方にもわかりやすく解説します!


PCRの目的:DNAを増やしたい!

PCRの目的はとてもシンプルです。「DNAを増やしたい!」ということ。

たとえば、感染症の検査(新型コロナウイルスなど)では、ウイルスのDNAやRNAを検出するためにPCRが使われます。ほんのわずかなウイルスの遺伝子も、この技術を使えば、検出可能なレベルまで増やすことができるんです。


PCRの材料:何が必要?

PCRを行うには、以下の材料が必要です。

  • DNAの型(鋳型):コピーしたい元のDNA
  • プライマー:DNAのコピー開始地点を決める短いDNA
  • DNAポリメラーゼ:DNAを合成する酵素(熱に強いTaqポリメラーゼがよく使われます)
  • ヌクレオチド(dNTP):DNAの材料になるA・T・G・Cの分子
  • 反応液・バッファー:酵素が働きやすい環境を整える

PCRの手順:3つのステップを繰り返すだけ!

PCRは、次の3つのステップを1サイクルとして、30〜40回ほど繰り返します。

① 変性(でんせい)ステップ:94〜98℃

高温にしてDNAの二本鎖を1本ずつにほどく(解離)

② アニーリング(結合)ステップ:50〜65℃

冷やすことで、プライマーが目的のDNAにピタッとくっつく

③ 伸長(しんちょう)ステップ:72℃

DNAポリメラーゼがくっついたプライマーからDNAをコピーし始める

この3ステップを繰り返すことで、DNAは指数関数的に増えていきます。


PCRの仕組みを図にすると?

DNA → (変性)→ 1本ずつに
 ↓
プライマーがくっつく(アニーリング)
 ↓
DNAポリメラーゼが新しい鎖を合成(伸長)
 ↓
コピー完成!また次のサイクルへ

1回で2本 → 4本 → 8本 → …と倍々に増えていくイメージです。


PCRの応用例

  • 感染症検査(新型コロナ・インフルエンザ)
  • がん遺伝子の検出
  • 法医学・DNA鑑定
  • 遺伝子組み換え食品の検査
  • 生物学の基礎研究

私たちの生活や医療の現場でも、PCRはすでに身近な存在になっています。


まとめ:PCRはDNAのコピー機!

🔹 PCRは「DNAを大量にコピーする技術」
🔹 基本は「変性→アニーリング→伸長」の3ステップ
🔹 繰り返すことで、DNAが爆発的に増える
🔹 医療、研究、法医学など幅広く活躍


よくある質問(FAQ)

Q. PCRは誰でもできますか?
→ 専用の機械(サーマルサイクラー)と基礎的な知識があれば、学生実験や研究室でも行えます。

Q. RNAはPCRで増やせますか?
→ RNAは「RT-PCR(逆転写PCR)」でDNAに変換してから増やします。


ご質問があれば、コメント欄へどうぞ!
次回は「リアルタイムPCR(qPCR)」についても解説します!