研究

高齢者に多い感染症と抗菌薬の使い分け(外来・訪問診療向け)

高齢者では免疫機能の低下、基礎疾患や嚥下機能低下、褥瘡などにより感染症リスクが高まります。外来や訪問診療では、限られた情報の中で早期に適切な抗菌薬を選ぶことが求められます。以下に高齢者に多い疾患ごとに整理します。


呼吸器感染症(肺炎・誤嚥性肺炎)

  • 市中肺炎
     第一選択はニューキノロン系(レボフロキサシン)やβラクタム系(アモキシシリン)。基礎疾患を有する例ではセフェム系第3世代を使用することもあります。
  • 誤嚥性肺炎
     嫌気性菌を想定し、アモキシシリン・クラブラン酸やセフトリアキソン+メトロニダゾールを使用。再発予防には嚥下訓練や口腔ケアが重要です。

尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)

  • 単純性膀胱炎
     ニューキノロン系(レボフロキサシン)、ST合剤を使用。ただし再発例や介護施設入所例では耐性菌を想定。
  • 腎盂腎炎
     全身状態が安定していれば外来でニューキノロン系経口も可能ですが、発熱・嘔気・脱水を伴う場合は入院点滴加療が望ましい。

皮膚・軟部組織感染症(蜂窩織炎・褥瘡感染)

  • 蜂窩織炎
     セフェム系第1世代(セファレキシン)が第一選択。MRSAリスクが高い場合はST合剤やクリンダマイシンを検討。
  • 褥瘡感染
     嫌気性菌を想定し、アモキシシリン・クラブラン酸、またはセフトリアキソン+クリンダマイシンなどを選択。デブリードマンや圧迫予防も並行して行うことが重要。

胆道感染症(胆嚢炎・胆管炎)

  • 高齢者に多く、基礎疾患で手術リスクも高いことが多い。
  • 軽症例ではセフトリアキソンやフルオロキノロン系(シプロフロキサシン)で外来対応可能な場合もありますが、原則は入院加療を推奨。

高齢者感染症診療の注意点

  1. 腎機能・肝機能に応じた投与量調整
  2. 脱水・低栄養・嚥下障害を背景因子として評価
  3. 抗菌薬の長期投与は耐性菌リスクを高めるため最小限に
疾患(部位)想定される主な起因菌外来・訪問での第一選択薬補足・注意点
肺炎(市中肺炎)肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマレボフロキサシン、アモキシシリン重症例はセフェム系第3世代+マクロライド併用も考慮
誤嚥性肺炎嫌気性菌、口腔内常在菌アモキシシリン・クラブラン酸、セフトリアキソン+メトロニダゾール口腔ケア・嚥下訓練が再発予防に重要
単純性膀胱炎大腸菌、クレブシエラ属レボフロキサシン、ST合剤再発例・施設入所例では耐性菌を想定
腎盂腎炎(軽症)大腸菌、腸内細菌科レボフロキサシン(経口)発熱・全身状態不良なら入院点滴加療
蜂窩織炎化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌セファレキシン(第1世代セフェム)MRSAリスク例ではST合剤やクリンダマイシンを考慮
褥瘡感染ブドウ球菌、腸内細菌科、嫌気性菌アモキシシリン・クラブラン酸、セフトリアキソン+クリンダマイシンデブリードマン・体位変換など非薬物療法も必須
胆道感染症(胆嚢炎・胆管炎)腸内細菌科、嫌気性菌セフトリアキソン、シプロフロキサシン外来で扱えるのは軽症例のみ、原則は入院管理

本記事は一般的な医療知識を整理したものであり、診断や治療方針の決定には必ず主治医の判断を仰いでください。患者さんの状態や地域の耐性菌状況によって適切な対応は異なります。

臓器別にみる抗菌薬の使い分け(外来・訪問診療向け)

感染症診療では、起因菌の想定と薬剤の組織移行性を意識した抗菌薬選択が重要です。外来や訪問診療の場面では、入院加療が必要かどうかの判断に加え、初期治療薬の適切な選択が診療の質を大きく左右します。以下に臓器別の抗菌薬の使い分けを整理します。

呼吸器感染症

  • 上気道感染(急性咽頭炎・副鼻腔炎など)
     多くはウイルス性。溶連菌を疑う場合はペニシリン系(アモキシシリン)。
  • 市中肺炎
     第一選択はニューキノロン系(レボフロキサシン)またはマクロライド系(クラリスロマイシン)。基礎疾患がある場合や重症例ではβラクタム+マクロライド併用も考慮。

尿路感染症

  • 単純性膀胱炎
     第一選択はニューキノロン系(レボフロキサシン)やST合剤。再発例では耐性菌の可能性に注意。
  • 腎盂腎炎(軽症例)
     外来対応可能な場合はニューキノロン系経口。発熱・全身状態不良なら入院し点滴加療。

皮膚・軟部組織感染症

  • 蜂窩織炎
     ブドウ球菌・レンサ球菌を想定。第一選択はセフェム系第1世代(セファゾリン、セファレキシン)。MRSAリスクが高い場合はST合剤やクリンダマイシンを考慮。
  • 褥瘡感染
     嫌気性菌も関与するため、アモキシシリン・クラブラン酸やクリンダマイシン+ニューキノロンを検討。

胆道感染症

  • 軽症の胆嚢炎・胆管炎
     外来ではセフェム系第3世代(セフトリアキソン)やフルオロキノロン系(シプロフロキサシン)を使用する場合もある。ただし入院管理が望ましいケースが多い。

消化器感染症

  • 細菌性腸炎
     多くは自然軽快するため抗菌薬不要。重症例や免疫不全ではニューキノロン系を短期投与。

実臨床でのポイント

  1. 地域の耐性菌動向を意識する
  2. 腎機能・肝機能に応じて投与量を調整する
  3. 初期治療はできる限り狭域スペクトラム薬から

本記事は一般的な医療知識の整理であり、実際の診療判断は患者さんの状態・検査所見・地域の耐性菌状況などを踏まえ、必ず主治医の判断に従ってください。

胚葉からみる人体の発生まとめ:外胚葉・中胚葉・内胚葉の分化

はじめに

人体は受精卵から始まり、発生の過程で 外胚葉・中胚葉・内胚葉 の三胚葉へと分化します。これらの胚葉はそれぞれ特定の臓器や組織を形成し、複雑な人体の構造が出来上がります。本記事では、これまで紹介してきた各胚葉の発生をまとめ、臓器形成を俯瞰的に整理します。


外胚葉由来の器官

外胚葉は主に「神経系・感覚器・皮膚表皮」を形成します。

  • 中枢神経系:神経管から脳・脊髄が発生。胎生3〜4週で神経管閉鎖が完了。
  • 末梢神経系:神経堤細胞から脳神経節・交感神経・副腎髄質などが形成。
  • 感覚器:眼(レンズ・網膜)、耳(内耳)、嗅覚器官などが外胚葉由来。
  • 表皮:皮膚の角化上皮、毛髪、爪、汗腺、乳腺などが発生。

中胚葉由来の器官

中胚葉は体の「支持構造・循環系・泌尿生殖系」を中心に分化します。

  • 筋骨格系:体節(ソミトメア)から骨格筋・椎骨・肋骨、側板中胚葉から四肢骨が形成(胎生4〜6週で主要構造が出現)。
  • 心血管系:原始心管が胎生3週で形成され、4週で拍動開始。動脈系・静脈系・リンパ系が分岐して全身循環が完成。
  • 泌尿生殖系:中間中胚葉から腎臓(前腎→中腎→後腎)、尿管、性腺が発生。性分化は胎生7週頃に始まる。

内胚葉由来の器官

内胚葉は「消化管・呼吸器・内分泌腺」の基盤をつくります。

  • 呼吸器系:前腸から気管・肺が発生。胎生4週で肺芽が出現し、24週頃までに肺胞の前駆構造が形成。
  • 消化器系:前腸(咽頭〜胃・肝胆膵)、中腸(小腸〜横行結腸)、後腸(下部消化管)が分化。肝臓・膵臓も内胚葉性。
  • 内分泌・その他:甲状腺、上皮小体、胸腺などの内分泌器官も内胚葉由来。

胚葉発生の全体像

  • 外胚葉:神経・感覚・皮膚
  • 中胚葉:運動・支持・循環・排泄・生殖
  • 内胚葉:消化・呼吸・内分泌

このように三胚葉はそれぞれ特定の機能系を担い、互いに補完しながら発生していきます。発生学を理解することは、先天異常や再生医療研究の基盤を学ぶ上でも重要です。


おわりに

今回の記事で三胚葉に基づく器官形成の総まとめを紹介しました。

内胚葉由来の器官の発生(4)咽頭器官・甲状腺・副甲状腺・胸腺

1. 発生の起源

  • 咽頭器官は前腸内胚葉と、それを取り囲む中胚葉・神経堤由来組織の相互作用によって形成される。
  • 咽頭嚢(pharyngeal pouches)が内胚葉由来の主要な構造で、そこから甲状腺・副甲状腺・胸腺・耳管・扁桃などが発生する。

2. 発生週数ごとの流れ

3〜4週:咽頭器官の出現

  • 原始咽頭の両側に咽頭弓(mesoderm + 神経堤由来)が形成。
  • 内側に対応する咽頭嚢が内胚葉から形成される。
  • 咽頭嚢は1〜4対あり、それぞれ異なる器官に分化。

咽頭嚢の分化

  • 第1咽頭嚢:耳管(耳管咽頭管)と中耳腔に発達。
  • 第2咽頭嚢:口蓋扁桃の上皮性部分に寄与。
  • 第3咽頭嚢:背側部 → 下副甲状腺、腹側部 → 胸腺。
  • 第4咽頭嚢:背側部 → 上副甲状腺、腹側部 → ウルトラベリア小体(後に傍濾胞細胞)。

甲状腺の発生

  • 4週:舌盲孔付近の内胚葉から甲状腺原基が出現。
  • 5〜7週:下降しながら前頸部に移動、最終的に気管前方に位置。
  • 10週以降:濾胞形成開始、胎生中期からヨード濃縮・甲状腺ホルモン合成が始まる。

副甲状腺の発生

  • 第3咽頭嚢背側部 → 下副甲状腺(下降して甲状腺下部へ)。
  • 第4咽頭嚢背側部 → 上副甲状腺(相対的に高い位置に残る)。

胸腺の発生

  • 第3咽頭嚢腹側部に由来。
  • 6〜8週:前縦隔に向かって下降。
  • 胎生中期以降:皮質・髄質に分化し、T細胞分化の場として機能開始。

3. 臨床的意義

  • 甲状舌管嚢胞:甲状腺下降経路が遺残して嚢胞化。
  • 異所性甲状腺:甲状腺組織が下降途中に残る(舌甲状腺など)。
  • DiGeorge症候群:第3・4咽頭嚢の形成異常 → 胸腺低形成・副甲状腺低形成、免疫不全や低カルシウム血症をきたす。
  • 副甲状腺の位置異常:下降の過程で多彩な位置に存在し、外科的治療の際に問題となる。

まとめ

  • 咽頭嚢は内胚葉由来で、耳管・扁桃・副甲状腺・胸腺などを形成。
  • 甲状腺は舌盲孔から発生し、前頸部へ下降。
  • 副甲状腺は第3・4咽頭嚢背側部、胸腺は第3咽頭嚢腹側部に由来。
  • 発生異常は嚢胞、異所性甲状腺、DiGeorge症候群など臨床的に重要。

内胚葉由来の器官の発生(3)肝臓・胆道・膵臓の発生

1. 発生の起源

  • 肝臓・胆道・膵臓はいずれも前腸内胚葉由来。
  • 周囲の臓側中胚葉が血管系・支持組織・一部の細胞分化に寄与します。

2. 発生週数ごとの流れ

肝臓の発生

  • 3週末〜4週:前腸腹側に**肝芽(hepatic diverticulum)**が出現。
  • 5週:肝芽は横中隔中胚葉に侵入し、**肝索(hepatic cords)**を形成。造血細胞も集まり、胎児肝は主要な造血の場となる。
  • 6〜10週:胆管構造が発達。
  • 10週以降:肝臓の胆汁産生開始(胎生期では羊水に排泄される)。

胆道系の発生

  • 4週:肝芽の一部が胆嚢・胆管原基に分化。
  • 5〜7週:肝外胆道が形成される。肝芽と十二指腸の交通が再開され、胆管が開通。
  • 12週以降:胆汁の流れが始まる。

膵臓の発生

  • 4週:前腸から背側膵芽腹側膵芽が出現。
  • 5〜6週:十二指腸の回転に伴い、腹側膵芽が背側膵芽の後方に移動・癒合。
  • 7週以降:膵管が形成され、主膵管(Wirsung管)・副膵管(Santorini管)が分かれる。
  • 8〜10週:膵島(ランゲルハンス島)が出現し、内分泌機能が始まる。

3. 臨床的意義

  • 胆道閉鎖症:胎生期の胆道形成不全により新生児期に胆汁排泄障害。
  • 膵輪症:腹側膵芽が異常に回転し、十二指腸を取り囲んで狭窄を起こす。
  • 膵胆管合流異常:膵管と胆管の合流が異常で、膵液と胆汁の逆流による胆道系疾患のリスク。
  • 胎児肝造血:出生前の造血障害や肝機能発達の評価に臨床的意義がある。

まとめ

  • 肝臓・胆道・膵臓はいずれも前腸由来
  • 肝臓は3〜4週に肝芽が形成され、5週以降に造血・胆汁産生が始まる。
  • 胆道系は肝芽の一部から分化し、12週以降胆汁の流れが確立。
  • 膵臓は背側・腹側膵芽から発生し、5〜6週に癒合、8週以降に内分泌機能が始まる。

内胚葉由来の器官の発生(2)消化器系の発生

1. 消化器系の発生の起源

消化管は内胚葉由来で、胎児の体内に原始腸管(primitive gut tube)が形成されることから始まります。

  • 前腸(foregut):咽頭、食道、胃、十二指腸近位部、肝臓、胆嚢、膵臓
  • 中腸(midgut):十二指腸遠位部、小腸、大腸の近位2/3
  • 後腸(hindgut):大腸遠位1/3、直腸、肛門の一部、尿生殖洞の一部

2. 発生週数ごとの流れ

3〜4週:原始腸管の形成

  • 胚の折りたたみにより、卵黄嚢の一部が取り込まれ原始腸管が形成される。
  • 咽頭膜と肛門膜が前後端を閉鎖。

4〜5週:前腸の分化

  • 食道:気管と分離して伸長。
  • :前腸が膨らみ形成、90°回転して大弯・小弯ができる。
  • 肝芽:前腸腹側壁から突出し、肝臓原基となる。
  • 膵芽:背側・腹側に出現、のちに癒合して膵臓を形成。

5〜6週:中腸の伸長と回転開始

  • 中腸が急速に伸び、生理的臍帯ヘルニアとして一時的に腹腔外に突出。
  • 腸管ループが形成され、上腸間膜動脈を軸に反時計回り90°回転

6〜8週:後腸の形成

  • 後腸から直腸・肛門・膀胱の一部が発生。
  • 尿直腸中隔が下降し、尿生殖洞と直腸を分離。

8〜10週:中腸の還納

  • 腸管が再び腹腔内へ戻り、さらに反時計回り180°回転
  • 結果として、合計270°の回転を経て最終的な小腸・大腸の位置が決定。

10〜12週:組織分化

  • 胃粘膜に腺構造が出現。
  • 肝臓では造血が盛んになり、胆道系が形成される。
  • 膵臓ではランゲルハンス島が出現。

3. 臨床的意義

  • 臍帯ヘルニアの遺残:生理的ヘルニアからの還納が不十分だと臍帯ヘルニアや腹壁破裂に。
  • 腸回転異常:回転が不完全だと腸閉塞や捻転の原因に。
  • 食道閉鎖・気管食道瘻:前腸の分離異常。
  • 膵輪症:膵芽の回転異常により十二指腸が狭窄。

まとめ

  • 消化器系は前腸・中腸・後腸に分かれて発生する。
  • 3〜4週で原始腸管形成 → 5週で前腸分化 → 6〜10週で中腸の伸長と回転 → 10週以降で組織分化
  • 発生過程の異常は消化管奇形や位置異常を引き起こす。

内胚葉由来の器官の発生(1)呼吸器系の発生

1. 発生の起源

呼吸器系は前腸内胚葉に由来します。
発生4週頃、前腸の腹側壁から 肺芽(respiratory diverticulum / lung bud) が突出し、そこから気管・気管支・肺が発生します。周囲の**側板中胚葉(臓側中胚葉)**が気道や肺胞の間質や血管系に寄与します。


2. 発生週数ごとの流れ

3〜4週:肺芽の出現

  • 前腸腹側に**喉頭気管憩室(laryngotracheal diverticulum)**が形成される。
  • 周囲の隆起(気管食道ヒダ)が融合し、前方は気管・後方は食道へ分離。

5週:原始肺芽の分岐

  • 肺芽が二つに分岐し、右肺芽・左肺芽となる。
  • これが後に右肺3葉、左肺2葉の原基になる。

6〜7週:気管支樹の発達

  • 右肺芽 → 3つの二次気管支、左肺芽 → 2つの二次気管支へ分岐。
  • さらに分岐を重ねて、細気管支レベルまで樹状に発達。

8〜16週:偽腺期(pseudoglandular stage)

  • 気管支の分岐が進み、細気管支の形成。
  • この段階ではまだガス交換能はない。

16〜24週:管状期(canalicular stage)

  • 終末細気管支から呼吸細気管支へ分化。
  • 周囲に毛細血管が接近し、ガス交換可能な構造が準備される。
  • Ⅱ型肺胞上皮細胞が出現し、少量のサーファクタントを分泌開始。

24〜36週:囊状期(saccular stage)

  • 終末嚢(primitive alveoli)が形成される。
  • 毛細血管が嚢の壁に密着し、ガス交換能力が増加。
  • サーファクタント産生が本格化。

36週〜出生後:肺胞期(alveolar stage)

  • 生後8歳頃まで続く。
  • 肺胞数は出生時に約2,000万個 → 成長に伴い約3億個に増加。

3. 発生の特徴と臨床的意義

  • サーファクタント不足:出生前に十分に分泌されないと、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)の原因になる。
  • 肺分岐の異常:先天性肺嚢胞や気管食道瘻の形成につながる。
  • 胎児期呼吸運動:子宮内で羊水を出し入れする運動は、肺の発達と筋肉系の成熟に不可欠。

まとめ

  • 呼吸器は前腸内胚葉由来で、4週に肺芽が出現。
  • その後、気管支分岐 → 偽腺期 → 管状期 → 囊状期 → 肺胞期と進行。
  • 出生後も肺胞は増加し、呼吸機能の成熟が続く。

内胚葉由来の器官の発生(概要)

内胚葉の基本

内胚葉(endoderm)は胚盤胞期の内細胞塊から形成され、原腸陥入により胚の最内層を構成します。発生4週ごろには前腸・中腸・後腸に区画化され、そこから消化器や呼吸器などの管腔臓器が発生します。

  • 前腸:咽頭、食道、胃、肝臓、膵臓、呼吸器(肺)など
  • 中腸:小腸、盲腸、上行結腸、横行結腸の一部
  • 後腸:横行結腸遠位部、下行結腸、直腸、肛門の一部

内胚葉から発生する主な器官

  1. 呼吸器系:気管・気管支・肺(前腸から分岐)
  2. 消化管:咽頭から直腸に至る管状構造
  3. 消化腺:肝臓・膵臓・胆嚢など(前腸の芽として出現)
  4. 内分泌腺:甲状腺、上皮小体(副甲状腺)、胸腺など
  5. 膀胱・尿道の一部:後腸から派生

発生週数の流れ(大まかに)

  • 3週末〜4週:前腸・中腸・後腸に分化開始
  • 4〜5週:肺芽、肝芽、膵芽が出現
  • 6〜8週:胃の回転、小腸ループの形成、肝臓・膵臓の分枝
  • 10週以降:腸管の腹腔内還納、呼吸器・消化器の分化進行

泌尿生殖系の発生 ― 腎臓・尿路・生殖器の形成

泌尿生殖系の起源

泌尿器系と生殖器系は、ともに**中胚葉(中間中胚葉)**から発生します。発生の初期には尿路と生殖の原基が隣接しており、密接に関連した構造として分化していきます。


腎臓の発生 ― 三段階の形成

  • 前腎(pronephros)
    • 第4週初期に形成される最も原始的な腎。
    • すぐに退縮し、ヒトでは機能しない。
  • 中腎(mesonephros)
    • 第4週後半〜第5週に出現。
    • 一時的に尿生成能を持ち、排泄管(中腎管:ウォルフ管)を形成。
    • 後に男子では生殖器官の一部に利用される。
  • 後腎(metanephros)
    • 第5週以降に発生し、最終的な永久腎となる。
    • 中腎管から分岐する尿管芽と、後腎芽体が相互作用して形成。
    • 第9週ごろから尿産生を開始。

尿路系の発生

  • 第5〜7週
    • 尿管芽から尿管・腎盂・腎杯・集合管が形成。
    • 膀胱は総排泄腔(cloaca)の前方部分から分化。
    • 尿道は総排泄腔の後部から形成される。
  • 第8週以降
    • 尿道の性差が出現し始める。男子では尿道がペニス内部へ延長、女子では短く外陰部に開口。

生殖器の発生

  • 第5週
    • 中腎の内側に生殖隆起が出現し、生殖腺の原基となる。
  • 第6〜7週
    • 性決定が始まる。
    • 男性では SRY遺伝子 が精巣分化を誘導。
    • 女性では SRY がないため卵巣へ分化。
  • 第8週以降
    • 男性:セルトリ細胞が抗ミュラー管ホルモン(AMH)を分泌 → ミュラー管が退縮。ウォルフ管が精巣上体・精管などに分化。
    • 女性:ウォルフ管は退縮。ミュラー管が子宮・卵管・膣上部に分化。

発生週齢まとめ

  • 第4週: 前腎 → 退縮
  • 第4〜5週: 中腎形成、一時的に機能
  • 第5週: 後腎(永久腎)発生開始、生殖隆起出現
  • 第6〜7週: 性決定(SRY の有無で分岐)
  • 第7週以降: 膀胱・尿道の形成進行
  • 第9週: 後腎が尿生成を開始
  • 第10週以降: 生殖器官の性差が顕著に

臨床的意義

  • 先天性腎無形成・異形成:尿管芽と後腎芽体の相互作用不全
  • 尿道下裂・膀胱外反症:尿道・膀胱形成過程の異常
  • 両性具有・性分化疾患(DSD):性決定や管系分化の異常
  • 馬蹄腎:腎の癒合と移動障害による形成異常

まとめ

  • 泌尿生殖系は中間中胚葉由来で、腎臓は前腎→中腎→後腎の三段階を経て形成。
  • 生殖器は6〜7週に性分化が始まり、ミュラー管とウォルフ管の運命で男女の違いが決まる。
  • この過程の理解は、泌尿器系や生殖器系の先天異常の診断に不可欠。

血管形成の発生 ― 動脈・静脈・リンパ系の起源と分化

血管形成の起源

血管は中胚葉由来で、血管新生(angiogenesis)血管芽生(vasculogenesis) の2つのプロセスを通じて発生します。

  • 血管芽生(第3週〜): 血島(blood island)から内皮細胞が分化し、一次的な血管網が形成。
  • 血管新生(第4週〜): 既存の血管から分枝や吻合が起こり、複雑なネットワークが発展。

動脈系の発生

  • 第3〜4週
    • 原始大動脈(左右の背側大動脈)が形成。
    • 心臓の動脈幹から左右の**動脈弓(aortic arches)**が出現し、背側大動脈と連結。
  • 第4〜6週
    • 動脈弓は一時的に6対存在するが、その多くは退縮または変化。
    • それぞれが成人の主要血管へ分化:
      • 第3動脈弓 → 内頸動脈
      • 第4動脈弓 → 大動脈弓(左)、右鎖骨下動脈(右)
      • 第6動脈弓 → 肺動脈・動脈管
  • 第7〜8週
    • 背側大動脈が融合して胸部〜腹部大動脈を形成。
    • 腹部から枝分かれし、腎動脈・腸間膜動脈など臓器血管が分化。

静脈系の発生

  • 第4週
    • 前主静脈(頭部)と 後主静脈(下半身)が形成され、総主静脈を介して心臓に流入。
    • 卵黄静脈臍静脈も存在し、胎盤・卵黄嚢からの血流を担う。
  • 第5〜7週
    • 複雑な静脈吻合と退縮が進む。
    • 最終的に以下に整理:
      • 上大静脈:前主静脈の右側成分から形成。
      • 下大静脈:後主静脈、卵黄静脈、肝静脈など複数由来が統合。
      • 門脈系:卵黄静脈の改変により形成。
      • 肝循環:臍静脈が肝静脈と連結し、胎盤血流を肝に導入。
  • 第8週以降
    • 臍静脈の左側のみが残存し、出生時に閉鎖して「円靭帯」となる。

リンパ系の発生

  • 第5週
    • 静脈系の近くに リンパ嚢(lymph sac) が出現(頸部・腸間膜・腰部など)。
    • 内皮細胞がリンパ管系に分化。
  • 第6〜7週
    • リンパ嚢からリンパ管が伸長し、全身にネットワークを形成。
    • 胸管と右リンパ管の前駆構造が出現。
  • 第8週以降
    • リンパ節の原基がリンパ嚢に沿って形成。
    • 免疫系の発達とともに成熟。

分子シグナル

  • VEGF-C / VEGFR-3: リンパ管新生を制御。
  • PROX1: 静脈内皮からリンパ内皮への分化を誘導。
  • NOTCH, SHH, FGF: 動脈・静脈の運命決定に関与。

臨床的意義

  • 動脈管開存症(PDA): 第6動脈弓由来の動脈管が出生後も閉鎖しない。
  • 大血管転位症: 動脈幹・円錐幹の分離異常。
  • 門脈異常: 卵黄静脈の再構築不全。
  • リンパ管奇形(リンパ管腫など): PROX1やVEGF-Cのシグナル異常。

まとめ

  • 動脈系は動脈弓を経て大動脈・頸動脈・肺動脈に分化。
  • 静脈系は複雑な退縮と再構築で上大静脈・下大静脈・門脈を形成。
  • リンパ系は第5週に静脈から分岐して発生し、胸管・リンパ節へと成長。
  • 発生学的理解は、先天性心血管疾患やリンパ管異常の診断・治療に直結する。