1. 病原体とは
**病原体(pathogen)**は、宿主に害を与える微生物や分子寄生体を指します。主な種類は以下の通りです。
- ウイルス:宿主細胞に侵入し、複製装置を利用して自己を増殖。
- 細菌:一部は病原性を持ち、毒素や酵素を分泌して組織にダメージを与える。
- 真菌・原虫:真核生物として、寄生や組織破壊を行うものも存在。
- 寄生虫:多細胞性で、長期間宿主にとどまるケースもある。
2. 感染のステップ
感染は段階的に進行します。多くの病原体は以下のステップを経て病気を引き起こします。
- 宿主への侵入 — 皮膚の損傷や粘膜から侵入。
- 付着 — 特定のレセプターに結合して細胞に取りつく。
- 侵入 — エンドサイトーシスや膜融合などで細胞内へ。
- 増殖 — 宿主の代謝・合成系を利用して複製。
- 拡散 — 血流やリンパを介して他の組織へ広がる。
- 免疫回避 — 宿主防御システムを回避・抑制。
3. ウイルス感染の分子機構
ウイルスは特に宿主依存性が高く、そのライフサイクルは分子レベルで精密です。
- 吸着:ウイルス表面のタンパク質が宿主細胞の特定の受容体に結合。
- 侵入と脱殻:カプシドが外れ、ゲノムが細胞質または核に放出。
- 複製:RNAウイルスはRNA依存性RNAポリメラーゼ、DNAウイルスは宿主のDNAポリメラーゼを利用。
- 組み立てと放出:新しいビリオンが組み立てられ、細胞から放出される(溶解やエキソサイトーシス)。
4. 細菌の感染戦略
病原性細菌は以下のような戦略をとります。
- 毒素の産生(例:コレラ毒素、破傷風毒素)
- 宿主細胞への侵入(例:サルモネラ、リステリア)
- 免疫回避(例:莢膜形成による食作用回避)
- バイオフィルム形成による長期定着
5. 宿主の防御機構
宿主は多層的な防御を持っています。
- 物理的障壁:皮膚、粘膜、繊毛
- 自然免疫:食作用(マクロファージ、好中球)、補体系、自然免疫受容体(TLRなど)
- 獲得免疫:抗体による中和、キラーT細胞による感染細胞破壊、メモリー細胞の形成
6. 病原体の免疫回避戦略
- 抗原変異(例:インフルエンザウイルスの抗原シフト/ドリフト)
- MHC発現抑制(例:ヘルペスウイルス)
- 宿主免疫細胞の直接破壊(例:HIV)
まとめ
病原体と宿主の関係は「軍拡競争」に似ており、病原体は感染・拡散の戦略を進化させ、宿主はそれに対抗する防御を発達させてきました。分子レベルでの理解は、感染症の予防・治療の鍵となります。
参考文献および出典明記:
本記事の内容は『Molecular Biology of the Cell(第6版)』(Alberts著)に基づき、教育目的で要約・解説しています。原著における詳細な図版・文献・理論的背景は、該当書籍をご参照ください。著作権に配慮し、引用は最小限にとどめています。