外胚葉と神経誘導
受精卵から発生が進むと、三胚葉が形成されます。そのうち外胚葉は「表皮」と「神経系」を生み出す重要な層です。特に 脊索(のちの脊椎の中心部になる構造)から分泌されるシグナル(Noggin, Chordin, FGF など) が、外胚葉の一部を「神経板」へと誘導します。これが神経系形成の最初のステップです。
神経板から神経管へ
- 受精後およそ3週目、外胚葉の背側に「神経板」が出現します。
- 神経板は中央がくぼみ、「神経溝」を形成します。
- 両端が持ち上がって「神経ひだ」となり、やがて癒合して「神経管」を作ります(神経管閉鎖)。
神経管が閉じないと 二分脊椎(spina bifida)や無脳症(anencephaly) といった先天異常の原因になります。
脳胞の形成
神経管の前方(頭側)は膨らんで 3つの一次脳胞 を形成します。
- 前脳胞(将来:大脳、間脳)
- 中脳胞(将来:中脳)
- 菱脳胞(将来:小脳、橋、延髄)
その後さらに細分化され、大脳半球や視床、小脳など複雑な中枢神経が形作られます。
脊髄の発生
神経管の尾側は脊髄へと分化します。
- 神経管の壁は 神経上皮細胞 によって構成され、ここからニューロンやグリア細胞が発生します。
- 脊髄では背側に 感覚ニューロン(後角)、腹側に 運動ニューロン(前角) が配置されるようにパターン化されます。
この背腹方向のパターン化は Shh(Sonic hedgehog)とBMP(Bone Morphogenetic Protein) の濃度勾配によって決まります。
臨床との関連
- 葉酸不足 → 神経管閉鎖障害のリスク増加
- 催奇形因子(バルプロ酸、ビタミンA過剰など) → 中枢神経の奇形を誘発
- 神経堤細胞の異常 → 神経系と密接な関連(のちに解説)
まとめ
- 外胚葉は神経板を経て神経管を形成し、中枢神経系を生み出します。
- 脊索からのシグナルが神経誘導の鍵となり、脳胞や脊髄が順次発生します。
- 臨床的には神経管閉鎖障害の理解に直結します。
次回は、外胚葉由来のもうひとつの大きな領域である 神経堤細胞(ニューロン以外の多様な細胞群を生み出す) の発生について解説します。